アサドは悪い奴だが……
2016年11月、大方の予想を覆して米国次期大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれると、ロシアの国内世論は概ね歓迎ムードとなった。「孤立主義的」と言われる同氏が政権の座に就くことにより、米露間の懸案であるウクライナ問題やシリア問題での圧力が弱まるだろう、という期待感がその背景にはある。たとえばロシアの国営宣伝放送である『スプートニク』は、選挙期間中にトランプ候補が行った対外政策に関する発言を抜き出した「トランプ外交特集」を組んだが、ここにはロシアのトランプ政権に対する期待が色濃く現れている。
たとえばシリア問題についてはこんな具合である。
「私の政権は、ISISを打倒し、イスラム原理主義テロリズムを止めるために強調しようといういかなる国とも協力する。そこにはロシアも含まれる。もし彼らがISISをやっつけるために我々の側に立つなら、それはいいことだ」
「アサドは悪い奴だ。(中略)だが、もし彼ら(反体制派)がアサドを倒すなら、そいつらはアサドと同じくらい悪い奴だが、結果はアサドより悪いことになる」
この言葉通りであれば、アサド政権を「必要悪」として認め、対ISISでロシアと米国が強調するという、ロシアが従前から求めてきた構図ということになる。
鍵を握るトランプ政権人事
もっとも、こうしたトランプ氏の発言がそのまま外交政策に反映されるかどうかは未知数の部分が多い。「アメリカをもう一度偉大な国に」というトランプ氏のスローガンは、大部分が経済の再建に向けられたものであり、外交・安全保障政策には疎いということは選挙期間中からつとに指摘されてきた。それどころか、実際にトランプ次期政権入りが取りざたされている顔ぶれを見ると、外交・安全保障分野ではボルトン元国連大使やウールジー元CIA長官など、対露強硬派や積極介入派が目立つ(両名はイラク戦争を積極的に支持した人物として知られる)。ロシアとしては、これまでの発言だけを見てトランプ政権を手放しに歓迎できるわけではなさそうだ。
一方、トランプ政権ではフリン元DIA局長が安全保障担当補佐官に指名されているが、同人はロシアとの関わりが深いとされる。