メディアから読むロシア

2016年3月28日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 ロシアのプーチン大統領がシリアからロシア軍を撤退させると突如発表してからほぼ2週間が経過した。

 プーチン大統領は何を狙って撤退を決めたのか、またそれは本当に撤退と呼べるのか、撤退がシリア情勢に及ぼす影響はどのようなものか……などを巡り、メディアでは様々な観測が見られる。

 そこで本稿では原点に還り、シリア撤退についてのプーチン大統領の演説を読み解いてみたい。プーチン大統領は何を語ったのか、そしてそれは2週間後の情勢に照らしてどのように解釈できるのか、がその主なテーマである。

 プーチン大統領の演説は3月14日、モスクワのクレムリン宮殿内にある「ゲオルギーの間」で行われた。会場には、シリア作戦で主役を担った航空宇宙軍、海軍、陸軍の将兵に加え、国防産業の代表者や戦死者の遺族など合計700人が招かれるという大規模なイベントであった。

アサド政権打倒は非合法

昨年10月、米ワシントンで行われた、シリア系アメリカ人による、ロシアのシリアへの軍事介入を反対するデモ(Getty Images)

 ではまず、プーチン大統領の演説を冒頭から見ていきたい。

(翻訳)

 尊敬する同志諸君!親愛なる友人諸君!

 シリア作戦に参加した軍人諸君に心から挨拶申し上げる。

 飛行要員、艦艇乗組員、指揮・特殊部隊・偵察部隊・通信・支援要員、軍事顧問団の諸君全員は協調し、団結し、緊密に活動した。

 女性軍人の皆さんは特筆に価する。諸君らは男性と並ぶ頑健さと有能さを持って容易ならざる任務に当たっている。皆さんが選んだ職業と人生は大変な尊敬を呼び起こすものである。

 祖国に対する全ての諸君の忠誠に感謝申し上げる。

 ロシアは諸君を、すなわち高度のプロフェッショナリズムと勇気を持って祖国の利益を守る兵士諸君と将校諸君を誇りとするものである。

 尊敬する同志諸君は、2015年9月におけるシリアの情勢がどのようなものであったか覚えているだろう。当時、同国の国土の大部分はテロ組織に占拠され、情勢は悪化していた。

 同国大統領の正統な政府の要請を受け、国際法を完全に遵守する形で我々の軍事作戦を開始することが決定された。我々はその目的を正確に明らかにした。それは、シリア軍のテロに対する正当な戦いを支援することである。また、我々の活動は、テロリストに対する攻撃作戦の活動期間における一時的なものであるとされた。我々はシリア内での紛争に引きずり込まれるつもりはないことも明らかにしていた。最終的な解決を模索し、同国の将来を決めるのはシリア人自身でなければならない。

 我が作戦の主要な任務はテロリズムに対する攻撃であった。国際テロリズムとの戦いは、公正かつ正当なものである。これは文明の敵との戦いであり、世界の偉大な精神性及び人道的価値の思想及び意義を野蛮かつ暴力的な方法で消し去ろうと試みる者たちとの戦いである。

 繰り返しになるが、我々のシリアにおける活動の目的は、恐るべきグローバルな害悪を押しとどめ、テロリズムがロシアを転覆することを防ぐことであった。そして我が国は揺るぎない指導性、意思、責任を示したのである。

 我々はそのような結果を残した。諸君らの活動、すなわち激しい戦闘任務は、状況を一変させた。我々はテロ組織の台頭を許さず、無法者の基地や武器・弾薬庫を破壊し、テロリストの主要な資金源であった原油密輸ルートを封鎖した。

 我々はシリアの合法的な政府及び国家体制を強化するために偉大な働きを示した。これについては私が国連創設70周年に際して述べたように(「アラブの春を恐れるロシア」)、彼らの軍は強化され、今やテロリストを封じ込めるだけでなく、これらに対して有効な攻撃を行うに至っている。シリア軍は戦略的な主導権を握り、テロリスト集団から自らの国土を解放し続けている。

 重要なことは、我々が和平プロセスを開始するための条件を打ち立てたということだ。米国及びその他の諸国との間では、積極的かつ建設的な相互関係を再構築することができた。真に戦争の終結を望み、実現性のある(すなわち政治的な)紛争解決を模索する責任あるシリア国内の反体制派とも、である。そして、この平和への道を拓いたのは、ロシアの兵士諸君である。
(翻訳ここまで)

 プーチン大統領の発言は、これまでのロシア政府の立場を再確認したものである。すなわち、シリアにおいて法的正統性のある政権はアサド政権のみなのであり、これを打倒しようとする勢力は全て非合法である。したがって、ロシアのアサド政権に対する支援は完全に合法的であるというのがロシアの繰り返してきた立場だ。

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