2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月2日

 1月30日付のフィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのウォルフガング・ミュンチャウは、トランプ大統領はEUを混乱させる危険があるので、EUはそれに対処すべきであると述べています。その要旨は、次の通りです。

(iStock)

 トランプ大統領がEUを破壊したいのかはわからないが、EUはこの脅威をもっと真剣に受け止める必要がある。

 EUにとって心配なのは、英米首脳会談の後に控える貿易交渉である。トランプは、英国とEUの間に不協和音の種を撒くために戦略的な対応をするだろう。

 それ故、Brexitに関するEUの強硬な発言振りは逆効果である。それは英国をトランプの懐に追い遣る。英国との開かれた関係を維持することはEUの利益である。英国にとっても欧州との公正な合意から得る利益は大きい。

 EUの結束にとって差し迫ったリスクは対ロシア制裁のトランプによる一方的な解除である。そうなれば、EU、ロシア、ウクライナの間のミンスク・プロセスが壊れる。その時点で、欧州の制裁は維持することが不可能となる。トランプによる制裁解除はドイツおよびEUにおいて対ロ外交を主導して来たメルケル首相の立場を損ないかねない。

 以上の脅威に鑑み、EUは次の4つの行動を検討すべきである。

  1. NATOのGDP比2%の国防予算目標を達成する。多くのEU諸国は公正な負担をしていないという非難に弱みがある。フランス、ドイツ、もしかするとイタリアでの選挙を控えEUが共同の国防イニシアティブを打ち出す時期にはないが、国防予算の増額は出来る。
  2. EUは早急に英国の離脱を完了させる。EUは加盟27ヶ国ではなくEUの承認で足る暫定的で範囲の狭い自由貿易協定を追求すべきである。ファストトラックのBrexitは双方の利益になる。もっと包括的な協定はその後で構わない。
  3. 中国との新たな経済関係を検討すべきである。トランプがTPPを放擲し、TTIPが絶望的な状況は新たな経済同盟への途を開く。
  4. EUはユーロ圏を建て直す必要がある。選択肢は多くない。通貨同盟を維持するには政治同盟が必要であることを歴史が示している。

 EUは過去10年必要最小限のことしかやらず、その結果、哀れにも弱い存在でしかない。欧州はトランプに興奮することを止め、EUは何をなすべきかを検討すべきである。トランプの8年はいうに及ばず、その4年を場当たり的に切り抜けるというわけにはいかない。

出 典:Wolfgang Münchau ‘How Europe can avoid falling into Trump’s trap’(Financial Times, January 30, 2017)
https://www.ft.com/content/137cc610-e4b8-11e6-8405-9e5580d6e5fb


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