2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年2月17日

 カンボジアと中国との関係強化は、東南アジア情勢に波紋を及ぼすことになろう、と1月21日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は次の通りです。

プノンペン市街(iStock)
 

 二つの大国、タイとベトナムに挟まれたカンボジアは、小国の常として保護してくれる国を見出した。過去3代の中国主席がカンボジアを訪れ、気前のよい援助と投資を提供した。中国はカンボジアへの最大の投資提供国で、2015年の投資額は、他の諸国からの投資の総額を上回った。

 現在、中国は軍事援助や投資を行うだけでなく、中国企業がカンボジアの建設・採鉱・インフラ・水力発電に深く関与、さらに、衣料や食品加工の工場を経営し、広大な土地利権を得て砂糖やゴム等を栽培している。2011~15年のカンボジアの工業投資の70%は中国企業に由来する。一方、カンボジア政府は中国企業には、国立公園内でのリゾート開発や海岸線の20%の開発権を認める等、規則を曲げても便宜を図ることが多い。

 貧しいカンボジアが得る最も明らかな利益は経済で、中国のカネがなければ買えなかったものを買い、建てられなかったものを建てている。

 しかし、そこには経済的利益だけではなく、戦略的利益もある。中国はベトナムに対する防衛策として使える。クメール帝国時代の領土奪掠や1980年代の占領への恨みから、カンボジア人の反ベトナム感情は強い。

 また、政府の行動を規制する条件が付く西側の援助と違い、中国のカネはヒモ付きではない。1990年代にフンセンがクーデターで連立相手を排除すると、西側は援助を停止したが、中国は逆に拡大した。

 一方、中国にとってのメリットは、ASEAN内に代理人を確保できることだ。カンボジアは、ASEANが中国の南シナ海での行動について非難声明を出すのを繰り返し阻止した。昨年、領土問題の二国間解決を主張する中国をカンボジアが支持すると、中国は6億ドル相当の援助をカンボジアに与えている。

 また、中国は地域における米国の影響力も侵食しつつあるようだ。今週、カンボジアは、過去8年行ってきた米国との合同軍事演習を今年と来年は見合わせると発表した。しかし、中国とは11月に合同演習を行っており、初の海洋演習も実施した。

 中国がカンボジアに及ぼす影響は地域の結束を妨げるとのASEANの長年の主張も空疎なものになってきた。南シナ海をめぐる結束は既に崩れたようで、中国を国際仲裁裁判所に提訴したフィリピンは路線を変更し、ドゥテルテ大統領は米国を軽侮し、親中の姿勢を見せている。同じく中国と領有権を争うベトナムも、最近、二国間解決を図ると約束した。トランプ政権がいかなる南シナ海政策をとるかは不明だが、カンボジアは勝ち組を選んだように思える。

出 典:Economist ‘The giant’s client’(January 21, 2017)
http://www.economist.com/news/asia/21715010-and-why-it-worries-cambodias-neighbours-why-cambodia-has-cosied-up-china


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