1月25日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙主筆のマーティン・ウルフが、トランプの貿易政策は原始的重商主義で報復を招きやすく、地政学的にも種々の悪影響をもたらす、と述べています。その要旨は次の通りです。
トランプはこれまでのグローバル化のビジョンを拒否し、国境の保護が繁栄と力をもたらすとして、「バイアメリカン、ハイヤーアメリカン」を述べた。
トランプの貿易顧問Peter Navarroと次期商務長官Wilbur Rossは、いかなる取引も、米国の成長を促し、貿易赤字を減らし、製造業の基盤を強めるものでなければならないという「トランプ貿易ドクトリン」を述べた。
誰が世界一の経済大国の米国が原始的重商主義を唱えると想像しただろうか。恐ろしいことにトランプの側近は、まったく間違ったことを信じている。例えば彼らは、貿易赤字を決めるのは貿易政策であると信じている。実際には貿易バランスは収入と支出の差を反映する。二国間取引の利点を信じるのも間違いである。貿易取引は会社間の取引とは異なる。二国間主義は世界市場を分断する。
賢明でない政策は大きな損害をもたらしかねない。米国の大統領はほぼ何でもできる法的権限を持っているが、これまでの取引を取り消せば、米国は信頼できる相手ではないと見られるようになる。また報復の可能性がある。
中国とメキシコは米国の貿易の1/4を占める。貿易戦争になると米国の民間の雇用の480万人が失われる恐れがある。供給チェーンの混乱は特に深刻だろう。地政学的影響も大きい。メキシコ叩きは、過去30年にわたる改革を無にし、左翼政権の誕生を生みかねない。中国叩きは、今後何十年も両国関係を害するであろう。TPP放棄は、幾つかのアジアの同盟国を中国に手渡すかもしれない。「アメリカ第一」の主張は、経済戦争宣言のように聞こえる。米国の思うようにいくとは限らない。
覇権国家が、自ら作ったシステムを攻撃すると、二つの結果が生じる。一つはシステムの崩壊で、一つは新しい覇権国家が新システムを作ることである。ただ、中国は米国には代わりえない。よりあり得るのはシステムが崩壊して、貿易政策の混乱状態が出現することである。
出 典:Martin Wolf ‘Donald Trump and Xi Jinping’s battle over globalization’(Financial Times, January 25, 2017)
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