2024年12月23日(月)

人事は企業を変えられる

2017年3月14日

 シリコンバレーを中心に活躍する起業家たちの多くは、今より素晴らしい世の中を作りたい、社会の矛盾や不満を解消したいと願っている。そのために、彼らは飽くなきチャレンジを続け、新しい扉を開こうとしている。21世紀はこれまでできなかったことがどんどん具現化できる時代だ。

 日本企業はこの20年、経営の仕組みを米欧が定めた〝グローバルルール〟にあわせようとし、世界に追いつくことに躍起になってきた。しかしその結果、世界に誇れるイノベーションが日本からいくつ生まれただろうか?

 日本企業に今一番必要なことは、「リスクを取って、ビジネスの先頭を走る決断をすること」、そして「そのビジネスを何がなんでもやり遂げる情熱を持つこと」だ。新しいビジネスの切り口を見つけ、単独ではできないことを共創しあえるビジネスパートナーを探し、社内外の人材を巻き込める人材も、これまで以上に必要とされている。

(写真・Wavebreak Media)

 かつて日本企業が急成長したことで、トヨタ自動車を代表とするいくつかの企業がこだわってきたやり方が、世界からも評価された。生産設備、人材などの資産を自前で持ち、徐々に生産性を高めていく日本式の方法こそ、合理的だったからだ。しかしこの数年間で環境は変わった。今後は、さらなるITやAIの進化、労働人口の減少による人手不足などが起こり、もはや今までのやり方が通用する企業はほとんどなくなるだろう。

 今こそ、人事のイノベーションを起こす必要がある。その糸口となるのは、いかに社員に「ミニ経営経験」を積ませていくかだ。経営者視点で今のビジネスが無くなるかもしれないという危機感を持たせ、新たな事業をスタートさせる経験をさせてほしい。その経験が、戦略を立て、事業の採算性を見極め、ビジネスの優位性を保つための方策を考え、持てる資源を配分し、時には撤退を見極めることを社員に教えてくれる。

 社員の成長は、彼らがどれだけ、成功と失敗を経験したかの絶対量が決める。それらを社員にもたらしてくれる仕事をやらせもせず、リスクを取ることも良しとしないで、どうやって将来の企業の成長のカギを握る人材を作るのか。箱入り娘のようにエリートコースを歩ませることで、リスク管理ばかりして何の変革ももたらさないリーダーばかり作っても何の意味もない。

 平時から仕事を向上させるアイディアを出し、変革を成し遂げられる人材が多いことこそ、優秀な人材のリテンションとなる。当然、経営層にはこの認識を正しく理解し、そのために知恵を出すことが求められている。ニーチェの言葉には「脱皮しないヘビは滅びる」とあるが、変わるべき時に変われない会社の末路は厳しい。

 かつて、日本企業は社員を大切にし、やりがいを持たせ、世界で活躍する人材を抱えこむことができた。日本企業が世界で巻き返しを図るために、今こそ人事が先頭を切って、人材を育て、企業を変革していくことを願っている。

  
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◆Wedge2017年3月号より


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