春です。お江戸も桜が満開です。海を隔てた向こうに富士山が見えます。お江戸の楽しげなお花見、ちょいとのぞいてみましょうか。
お江戸のお花見
葛飾北斎さんの「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二(ごてんやまのふじ)」です(①)。天保2年(1831)頃、北斎さんが70代前半のときに刊行された、冨嶽三十六景シリーズ46枚のうち、唯一「桜と富士山」が描かれている作品。「前北斎為一(いいつ)筆」とあるのは、「前は北斎を名乗った為一」という当時の名前を意味します。ちなみに北斎さんは生涯に30回改号、お名前を改めたそうです。
ここは桜の名所、御殿山。品川の海が一望できる眺めのいい小高い丘です。絵の左下に見えるのは、東海道・品川宿場の家々の甍(いらか)です。現在でいうと、JR品川駅から程近い品川区北品川3丁目あたりでしょうか。お江戸の御殿山は、幕末に品川沖のお台場を築くために切り崩されたのですが、今の御殿山エリアよりすこし東にありました。
桜の木がひょろひょろと細長く伸びています(②)。現在おなじみのソメイヨシノではないようです。この御殿山の桜の歴史は古く、あの大和・吉野山から移植されたものに始まり、8代将軍・徳川吉宗さんがさらに植樹してふやし、お江戸で人気の花見処となりました。満開の桜の花を拡大して見ると、ごく淡いピンクのドットで描かれているではありませんか(③)。後世の欧米の「印象派の皆さん」も驚く桜の表現、描き方、うつし方……北斎さんには脱帽です。
美しい富士山にはまだ雪が残っています(④)。雪が多く残る右側が山梨側、左側が静岡側です。約200年前の当時も、桜の時期の富士山は、今と変わらず北側に雪が多く残っていたというわけです。