ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2016年11月2日

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牧野健太郎(読み解き) (まきの けんたろう)

ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

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近藤俊子(構成/文) (こんどう としこ)

編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

[執筆記事]

 宙に浮かんだ亀が窓越しに富士を眺めているのでしょうか? いえ、亀は吊るされています。でもどうしてでしょう。

Photograph © 2016 Museum of Fine Arts, Boston. All Rights reserved. William S. and John T. Spaulding Collection,1921 21_10428

 

大川越しに見える美しい富士山

 一見、窓の外に見える大川(隅田川)越しの遠景に富士山が、手前には宙に浮かんでいるような亀が描かれています(②)。この窓枠のように見えているのは、右側と下(左右逆のL字型)のピンク色は橋の欄干、そして左側と上のベージュ色は手桶の持ち手です。亀といえば萬年、その名を冠する深川萬年橋に描かれた通称「吊るし亀」は、実は手桶の持ち手からぶら下げられている亀のことです。亀が見ているのは、西の方角にある江戸の町、そしてその先の富士山です。

(左)②、(右)⑦

 歌川広重さん(⑦)の「名所江戸百景 深川萬年橋」(①)、シリーズ代表作の一枚です。萬年橋は大川にそそぐ小名木川(おなぎがわ)の河口近くに架けられ、通常より急なアーチの太鼓橋だったので、富士山を仰ぐ絶好のビューポイントでした。対岸は、現在の「日本橋中洲」周辺、首都高速の箱崎ジャンクションあたりでしょうか。

 

 この作品は安政4年(1857)8月15日(陰暦)、富岡八幡宮の祭礼の日を描いたものとされています。殺生を戒め、自然に放すことで徳を積む放生会(ほうじょうえ)と呼ばれる儀式があります。亀はそのためのもの。桶の中のどじょうや鮒(ふな)などを参拝客が買って、川に放すのです。しかし亀だけは桶から這い出してしまうので、持ち手から吊るされたというわけです。十文前後くらいしたのでしょうか(一文は現在の25円くらいといわれています)。桶の持ち主である橋番さん(橋の番人)にとっては、いわばいいアルバイトでした。川に放された亀や鮒を、橋番さんがまたまた捕まえた……かどうかは定かではありません。

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