WEDGE REPORT

2017年5月16日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

 かつて最貧国だったボリビアに住んでいるときが一番幸せだった。なぜだろうか? また、6年ほど前から国連が幸福度の国別ランキングを発表しているが、信頼に足るものなのだろうか? 地球の裏側から報告する。 

文明は最低限を満たせば、幸福とは無関係か

ボリビアの子供たち「旅行者を案内して小遣いもらっているけど、パパの友達だからお金はとらないよ」

 住んだのは、押し寄せる広大な緑の中で孤立した島のような何もない村だった。だが歯医者以外、最低限のものは揃っていた。教会、病院(派遣医1人)、小学校、雑貨屋、鉄道の駅、バスケットコート、サッカーグランド、フットサル競技場。

 人々の住む住居は草木の間に点在していた。家々の庭には、京都の寺院の結界を思わせる棒や柵があったが、いつでも乗り越えることができた。電話もインターネットもないのだから、用事があれば実際に家を訪問し、人と会う必要があった。 

 家の中の居間にはベッドとラジカセがあるだけだった。テレビを持つ家は一軒だけだった。だが、電波が届かなかった。パラグアイかブラジルの放送局の電波をまれに捉えるのだが、画面に無数の縦線が入ってジージーと雑音がした。だから、口コミとラジオが外の世界との窓口だった。

 昼は暑かった。村人は家の前の縁台に座って夕涼みをした。夜の帳が落ちると、電気がない村の天空いっぱいに、星屑がまたたく間に銀河を作った。日本ではかつて見たことのない夥しい星々に夜空が白く塗り込められていた。76年振りで現れたハレー彗星を肉眼でわずかにとらえることができた。

 土日の夜になるとディスコティックや酒場が開いた。同世代の職場の友人たちと連れだって訪れた。給料日のあとは賑わっていた。ただし、夜10時には村の電気が消えた。

 人々の生活は単純だった。友人や家族との語らい、酒、音楽、踊り、恋愛、サッカー。人にとって他に何が必要だろうか?  長い年月、この素朴さが幸せの源泉だと思っていた。

国連の世界幸福度レポートを嗤う

 国連が世界幸福デー(3月20日)に発表した幸福度ランキングの上位7カ国までは寒い北の国々である。1位から順に、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、スイス、フィンランド、オランダ、カナダ。日本は51位、ボリビアは58位。両者のポイントは、5.920、5.823と誤差の範囲である。

 幸福度レポートの背景を調べてみると、「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク (Sustainable Development Solutions Network:SDSN)」(潘基文国連前前事務総長が2012年8月に設立)が支援し、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授の指導のもとで運営されているという。調査資料を作るのは、ギャロップ社である。

 ジェフリー・サックスは筆者が滞在していた時代にボリビアを一層貧困化させた元凶を作った研究者である(今は反省しているようだ。「自由主義の終焉はアマゾンの小村で30年前に予言されていた」参照)。

 さて、幸福度を図る指標となっている6つの項目のうち、1人当たりGDP、社会的支援、健康寿命は適切かもしれないが、人生の選択の自由度、寛容さ、腐敗の認識は、次の理由で不適切か的外れである。

1.人生の選択の自由度(人生で何をするかの選択の自由に満足しているか)

 選択肢がたくさんあるから幸せとは限らない。選択肢があり過ぎると逆に困ることもあるだろうし、結局は親を継いで良かったということもある(家元、政治家、芸能人、農家、漁業者、窯元、開発を拒否するアマゾンの先住民など)。さらに親が子に生活のための技能を伝えるのは、もともとの人類の本来の姿だったのだから、子が家業を継ぐことは、親の幸福度を高める。

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