奈良県の大和高原で30カ所、12ヘクタールの茶畑を管理する健一自然農園。耕作放棄された茶畑を積極的に引き受け、自然栽培に取り組んできた。その夢は奈良でつくったお茶栽培のモデルを全国、そして世界に広げることだ。
ジャングルだった耕作放棄地を宝に
奈良県宇陀市。傾斜のきつい林道を上がっていった標高450メートルほどの山腹に70アールの茶畑が広がっている。傾斜のきつい斜面に茶の若木が等間隔に広がる。この茶畑、5年間人の手が入らず荒れ放題になっていたのを復活させたものだ。
「土地を見たときに農薬飛散もないし、荒れているために逆に土が肥えていて、ここはいいと直感しました。耕作放棄地だけど、自然栽培ができる。荷物だと思っているところにこそ宝はある」
この場所でお茶の自然栽培をしている健一自然農園代表の伊川健一さん(35)はこう言葉に力を込める。
借りた当時はお茶の木が3メートルほどの高さにもなり、茶畑だったとは到底想像できない荒れ具合だったそうだ。今でも当時の木を部分的に残しており、背の高い木々が絡み合って密生するその様は、まるでジャングルのよう。ここで栽培しているのは三年晩茶。3年間、途中で剪定をせずに成長させ、冬に木を根元から刈り取り薪で焙煎するというものだ。
この三年晩茶、耕作放棄地の解消だけにとどまらない効果を生んでいる。自然栽培の宿命の夏場の雑草との戦いでは、地元のお年寄りに作業してもらい、働く場を提供している。冬に刈り取りと焙煎を行うことで、通年雇用も実現した。また、化石燃料でなく、奈良県内の山林で出た間伐材の薪で焙煎することで、二酸化炭素排出を抑制し、かつ林業を支えてもいる。三年晩茶には、「農家が社会課題を解決する時代にしたい」という伊川さんの思いがぎゅっと詰まっているのだ。