もちろんそれは、起きるべくして起きた事態である。筆者が常に指摘してきたように、2010年になって中国経済はこのような深刻な局面を迎えるようになったのはむしろ、中国経済自体の抱えるジレンマと矛盾と、09年の経済危機を救うために中国政府が行ったあまりにも無謀な「景気対策」の必然の結果である。
つまり、無理に無理を重ねてきた結果、そのツケがまとまって回ってきた、というだけのことである。
限界にぶちあたった「二つの牽引力」
考えてみれば、この十数年間、慢性的な内需不足が続く中で、中国政府はずっと、「固定資産投資」と「対外輸出」の継続的拡大という二つの牽引力によって高い成長率を維持してきた。が、投資のやり過ぎは供給と消費のバランスを崩してしまい、成長の牽引力としての限界にぶつかった。輸出頼りの成長戦略もやがて、08年秋以来の世界同時不況の発生によって大いに頓挫した。
09年になると、輸出の急減で転落の崖っぷちに立たされた中国経済を救うために、政府は各銀行に大号令をかけて、総額9.6兆元(当年度の国内総生産の3割以上に相当)という世界金融史上前代未聞の放漫融資を行わせた。が、資金の一部が不動産投機に注ぎ込まれて史上最大の不動産バブルを膨らませ、実体経済からかけ離れた資金の大量供給はまた、インフレ発生の火種をまいた。
その結果、今年に入ってからの中国経済は、不動産バブルの膨張とインフレ発生の危険という二つの深刻な問題に同時に直面することとなった。そして、不動産バブルの崩壊が進んでいく中で中国経済はいよいよ、その「繁栄」の化けの皮を剥がされて貧弱な正体をさらけ出し、本格的な危機を迎えようとしているのである。
本音を吐いた温家宝首相の抱える「ジレンマ」
このような深刻な状況の中で、中国の経済運営の最高責任者である温家宝首相は最近になってついに、政府の経済政策の抱える「ジレンマ」について語りはじめたのである。
2010年7月3日、中国の温家宝首相は地方視察の途中で開いた経済座談会の席上で、世界金融危機の影響を受け、「(中国の)景気回復の複雑さは予想を越えている」と認めた上で、中国の経済政策の「直面するジレンマは増えつつある」と語ったことが中国の国内メディアによって大々的に報じられている。
中国の総理大臣が自国の「景気回復の複雑さ」や経済政策の「ジレンマ」について率直に語ることはまさに異例中の異例であり、いわば「重大発言」に属するようなものであろう。彼はいったい、何を言おうとしているのか。
温首相は、自らのいう「ジレンマ」とは一体何かについて具体的言及をしなかったが、温首相発言の2週間前の6月19日、中国社会科学院経済研究所の劉樹成所長が別の経済フォーラムで行った報告は、それに対する恰好の「注釈」となるのである。
中国の経済成長が直面する6つのジレンマ
劉所長は報告の中で、中国の経済政策の直面する「6つのジレンマ」を挙げている。1つ目はすなわち、景気刺激のための金融政策の抱えるジレンマである。