2024年4月25日(木)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月28日

 まあそうだと思います。だけど、僕は、仕事が始まったら、この人(内田氏)はメンドくさくなるのかなと思ってたんですけどね。

 でも、つくる過程で中身にはほとんど口、出してこなかった。こんなに何も言わなくていいのかな、というぐらい。キャラクターがこうなったとか、シナリオはこう、絵コンテがこんなふう、というのは、内田さんは全部見ているから、何かあったら口出しはできたと思うんですけど、不思議とそういうことには何も言ってこなくて。それでいいと思ってくれてたんだということかな。

異才のプロデューサーとの出会いから、作品が生まれた ©2010 森 絵都/「カラフル」製作委員会

「原さんは、頑固だから」

浜野 実を言うと、業界には原さんとやりたい人は多いけれど、皆さん口を揃えて言うのは、「原さんは、頑固だから」という。

 原さんに会ったことがあってもなくても、「世界観がちゃんとある人だから、出資者側の言い分なんか聞いてくれないんじゃないの? ここをこうしてくれって言ったとき、聞かないんじゃないか?」っていう思いがすごくあるみたい。

 でも、内田さんは、その原さんの世界観が彼自身で好きになって、賭けてみたわけでしょ。原さんと濃密な人間関係をつくって、原恵一という人間に賭けてみて、その賭けは成功した。黒澤明監督にしろ、スティーブン・スピルバーグ監督にしろ、名作を3本は続けても、4本続けるということは極めて難しい。不可能に近い。原さんはこれで4作続けてやりとおした。その点では内田さんの読みが正しかった。

 で、原作読んだ時、これは俺にできるなと思ったってさっき言ったけど、それはどんな感触ですか?

 なんにもしないでいいや、と思ったんです。原作の通り、つくればいいなって。

浜野 だったらシナリオを、今までの劇場公開作品みたいに自分でつくればよかった。どうして今回は丸尾みほさんに頼んだのですか? 最初からそうするつもりだった?

 そうですね、丸尾にやってもらおうと思ってましたね。丸尾は、『ガンダム』で、内田さんと仕事をしてましたし。内田さんが僕に会いたい、と言ってきたことを話した時に、「内田さんは誠実な人だから、会ったほうがいい」と言ってもらったんです。

 原作は面白いけど、このまま全部僕が絵コンテを書き始めたら、多分また収拾がつかなくなると思ったんですよ。構成的にも、バランスが悪くなるような気がした。それで1度、丸尾の手に委ねて、再構成やオリジナルエピソードを作り、長さのコントロールなどをしてもらいたいな、と。

浜野 黒澤監督もそうだった。ほんとは自分でやってもいいんだけど、自分だけだと独りよがりになって煮詰まっちゃうから、複数で書くと。

 で、やってみてどうでした? 劇場用作品で、他人のシナリオでやるのは原さんには初めての経験だったでしょ。

 『クレヨンしんちゃん』や『河童』は、あんまり細かいとこ決め込まずに、プロットから直接絵コンテをつくるやり方をしたんですけど、やりながらものすごく悩んでました。

 緩い括〔くく〕りだから、選択の幅が広くなりすぎちゃう。

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