シナリオがあって、それを絵コンテにするならスムーズに進むと思ってたんですけど、絵の構造をどうするだとか、別の細かいことで悩んだんで、絵コンテづくりはやっぱり時間かかっちゃいました。1年以上やってました。といっても、だらだらとではありましたけど。でも、シナリオという地図があったんで、道に迷うことはなかったですね。
ひとつの見方じゃない、複眼の視点
浜野 映画のことをあまり分析的に話すと興醒めだけど、僕は試写を見て、今度の映画にも原さんらしさが出ているなと思ったところがあります。
下:真という中学生の体で、再び生を受けた “僕”(右)。その現実を受け入れられず、天命の遣いであるプラプラ(左)に突っかかる。原監督作品における“別視点”を象徴するシーン。 ©2010森 絵都/「カラフル」製作委員会
たとえば、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』 (3)にしても、主人公の少年しんのすけの両親が、自分の過去歩んできた足跡を自分で見て、客観化するという視点がある。『河童』の場合、江戸時代の河童が現代に来て、今の日本を見る。
別の視点をもたせることが、原さんの表現をとてもユニークなものにしている。これがひとつの原さんらしさだと思う。
『カラフル』でも、原作はあるにしても、原さんの表現が活きているんですよね。「もうひとつ、別の視点」で描くという。だから、「ああ、そうか。原さん独自の語り口がきちっと出てる」と思ったんだよね。原さん、そういうのは意図的に?
原 いやいや、意図してないですね、あんまり。「今回はこのスタイルでいこう」とか、そんなこともあんまり考えない。ただ『カラフル』は、とにかくよけいなことはしないようにしようと思ってました。
浜野 シンプルに。
原 ええ、ストイックにというか。『カラフル』には、余分なものは必要ないと思ったから。
原作を好きだという人が多いんです。僕も、読んで面白いと思ったし、これはもう、このままやればいいやと思った。なにか加えようとか、あんまり考えなかったんですよ。こういう原作でアニメがつくれたということは幸運だと思ってます。
浜野 子供の人間関係だって、ともすると我々単純化してとらえがちだけど、実は非常に複雑ですよね。『河童』ではイジメが描かれていた。そして今度の『カラフル』もね。
©2010森 絵都/「カラフル」製作委員会
嘘ではない現実をきちんと描こうとしたって点で、『河童』も『カラフル』も、非常によかった。中島哲也監督の『告白』(4)でも、イジメとか、学級崩壊の実像を描いてて、共通してるなと思った。そういうことが描かれてること自体に、感銘を受けた。昔、木下惠介監督とか、黒澤監督が、現実の問題を映画に映して問題提起をしたというのと同じで。
表現を変えつつ、現実を映像にとらえ直したという点で、『カラフル』はほんとに意義ある作品だったと思います。
(構成・谷口智彦)
*続き(第2回)はこちら
原 恵一(はら・けいいち)
アニメーション監督。
1959年群馬県生まれ。1982年シンエイ動画入社。テレビシリーズの『ドラえもん』の演出などを経て、 『クレヨンしんちゃん』の監督に、劇場監督作品は『エスパー魔美 星空のダンシングドール』『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』などのほか、『クレヨン しんちゃん』では6作を手がける。01年『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』が話題を呼び、02年『クレヨンしんちゃん 嵐を呼 ぶアッパレ!戦国大合戦』で、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞などを受賞した。2010年8月には、最新作『カラフル』が公開予定。
映画『カラフル』
原恵一監督最新作!直木賞作家・森絵都のベストセラー小説を感動のアニメ映画化!
原作は『風に舞い上がるビニールシート』で第135回直木賞を受賞している作家、森絵都の同名小説。生きていくことをポジティブに伝えていくこの物語は、主人公と同世代の中高生はもちろん、「かって中学生だった」大人たちも爽やかな感動の渦に巻き込んだ。そしてこの感動作は、原恵一の演出によって最高の映像作品に生まれ変わる。
全国東宝系で、8月21日(土)より待望の劇場公開。
公式サイトはhttp://colorful-movie.jp/index.html