2024年12月25日(水)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月28日

浜野保樹さんの道案内で、各界に日本メディアを彩る人たちを訪ねるシリーズ。
今回浜野さんが対談相手に選んだのは、アニメーション監督、原恵一さんだ。

TV版『ドラえもん』、そして『クレヨンしんちゃん』の演出を手がけた原さん。
その才能に最も早くから注目、というより、瞠目していたのが浜野さんだ。

2001年、新世紀始まりの年、原さんは『しんちゃん』劇場版アニメで、驚くべき問いを投げかけた。
「進歩するって、良いことなのか」。「昔はホントに、今より貧しかったのか」。

答を探しあぐねる大人たち。
「でも僕、大きくなりたいもん」と、涙を振り絞って絶叫するしんちゃん。
文明への懐疑と、どんな時代にも懸命に生きようとする人間への賛歌――。
ふたつをともに訴えた映像が、懐かしい夕日の色とともに銀幕を染め上げるのを見た観客は、初め訝(いぶか)り、最後にどっと感涙にむせんだ。
「子供向け」アニメに、小さくない革命が起きた瞬間だ。

「時代に残る名作だーって、僕は最初から叫んでたんです」(浜野さん)。
その見立て通り、作品『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)は今、キネマ旬報誌が選んだ「ジャンル別オールタイム ベスト・テン」ランキング(2004年)の7位に顔を出す。

次作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(2002年)、次々作『河童のクゥと夏休み』(2007年)と立て続けに傑作を生み、賞という賞を総なめにした原さんは、この夏満を持して、現代劇『カラフル』を世に問う。

ある死者の魂が、地上に舞い降りる。
そして入り込んだのは、亡くなったばかりの男の子の体だった――というのが、物語の始まり。
彫啄〔ちょうたく〕に彫啄を重ねた細密風景描写を背景に、男の子に宿った魂は、ひとりの中学生とその家族、友人との間にあった関係へ放り込まれる。

最後に訪れる、物語の全秘密が明かされる瞬間。感動は、待ちかねたように見る者を包む。――そんな映画だ。

夏の初め、ある日曜の雨がぱらつく夕刻、渋谷の中華料理店へ原さんはふらりと現れた。
「ホラ彼、携帯電話持ってないからさ、現れるまでひやひやすんだよ」
と、浜野さんが言い終えたか、終えぬ頃。
地味目のTシャツに、肩からかけたズタ袋。噂に違わぬ、単純素朴を旨とする人らしい様子だ。

互いに尊敬し合う旧知2人の対談は、なんとなくボソボソと始まった。
浜野さんが選んだ話題はもちろん、自身、試写を見てきたばかりの『カラフル』。

次ページ 対談 『カラフル』誕生秘話!


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