2024年4月20日(土)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月28日


 
浜野保樹教授。編著『アニメーション監督 原恵一』(晶文社)では、原監督のこれまでの仕事はもちろん、その人となりまでを徹底解剖。

浜野 読者のために、内田さんのことを少し。

 ええ。2003年ですから、『河童』の可能性がまだ微妙な時期でしたけど、サンライズの内田健二さんという、今は社長ですが、当時まだ常務だった方が、シンエイ動画というアニメ・プロダクションにいた僕に、人を介してコンタクトをとってきた。

 それ以前に全く面識なかったんですけれど、会いたいという話で。

 仕事の話かなと思ったんですが、「サンライズ」って聞いたとき、やっぱりメカか、SFかなっていう気がしていた。

浜野 サンライズといえばバンダイの関係会社で、『機動戦士ガンダム』のアニメをつくり続けているとこだから。

『ガンダム』みたいのなら、つくれないと思った

 うん。どうせ俺にはあそこの仕事はできないだろうと思いながらも、外の人から声をかけてもらえるというのは、そんなに悪い気はしなかった。

 でも会いに行って、どのみち、「ちょっと難しいですね」って話になるなと思ってたんですよ。そしたら、内田さんが、いきなり理論社版の『カラフル』を出して、「これ、知ってる?」って言って。「実は、これを君につくってもらいたいんだよね」って。

原監督と内田氏との縁を結んだ、『カラフル』(森絵都著、フォア文庫、理論社)。

 「いや、読んだことないです」って言った。

 その時もう、次の作品それ自体を内田さんからもらっちゃった形でした。

 こっちは、どうせメカっぽいものを言われるんじゃないかと思って、「えー、こういうのは僕はちょっと」ていう断り文句を準備してたんだけど、サンライズの人がいきなり活字の本を出してきたんで、ちょっと面食らったんですね。それまでにも、たまに「一度食事でも……」なんて誘われて、外部の人と会うことはあったんですけど、飲み食いするだけで、あまり具体的な話にはならないことが多かった。でも、内田さんは最初から率直だった。会った場所もファミレスで、「まぁまぁ、ひとつよろしく……」なんてのも無し。いきなり、気持ちのいいパンチをもらった気分だった。

 ともかく、『カラフル』を渡されて、「それじゃあ読んでみて、もう1回連絡します」って返事した。

 で、読んだら面白かったんで、これは俺、できるなと思ったんですよね。内田さんにもその通り伝えたんですけど、僕はその頃シンエイ動画に籍がある「社員演出(家)」だったんで、他社の仕事ができるだろうかって問題もあるし、「今、実は『河童』という長年温めてた企画ができるかどうかわからない時期で、できることになったら、それを先にやりたい」という話をしました。「もしその後でもよかったら、やらせてください」っていう話をした。そこから内田さんとの付き合いがはじまって…。

浜野 どんな付き合いでした?

 内田さんと会うようになってから知ったんだけど、内田さんは僕にしたみたいなことを、いつも当たり前にやってるらしいんですよ。一面識もない人に、「あいつにこれ、つくらせてみたらいいんじゃないか」って思うと、いきなり会いに行ったりするような人らしいんです。

 それはともかく、最初に会ったときから、内田さんは面白い人だなと思ったんですよ。あ、この人と酒飲みたいなと思って――僕は滅多に、初対面の人にそんなこと思わないんですけど――、「今度、どっかでメシでもどうですか」とか言ったら、「おお、いいよ」って言ってくれた。

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