WEDGE REPORT

2017年6月20日

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マニュアル化

生産性向上を図る小野さん

 提言を受けてからこれを実践するためにどうするか悩んだ末に、従業員全員に情報を共有化することから始めた。32歳の男性社員の提案で、フロント係、客室係など誰でも見ることができるタブレット端末を配置した。従業員に口頭で注意しても、やりたくないことは「聞いてなかった」とか言い逃れされたが、タブレットに伝達事項を表示することで、全員に情報を伝えることができるようになった。「高齢の従業員からは反発されるのではないかという不安があったが、シンプルなことしか書かなかったので、徐々に浸透していった」。

 次のステップは、従業員によって異なる仕事内容を統一化だった。「布団を敷く、配膳をする場合でも人によってやり方が違い、それぞれの癖があったので、すべての仕事をマニュアル化して、誰がしても変わりないようにした。うちのような小規模旅館の場合は、全室にIT機器をいれるほどの設備投資はできなかった」と話す。

 タブレットを誰でも使いこなせるようになり、宿泊者の旅館についての口コミをタブレットのトップページに載せて、何時でも見られるようにするなど、使い方も進化した。情報共有が進んでチェックインからチェックアウトが効率的にできて、目に見える形で生産性がアップした。

 ある時、ベテランの客室係が交通事故に遭い、長期間休まざるを得なくなった。「以前だったら、とても仕事が回らなかっただろうが、仕事をマニュアル化して、1人の従業員が何役もこなせるマルチタスク化ができていたおかげで、臨時に人を雇うことなく乗り切ることができた」と振り返る。

人事考課を導入

 このクラスの事業規模の場合、多くは家族主義的な経営を踏襲して、人事考課制度などは導入していない企業が多い。しかし、「まともな企業にするために、人事考課を導入した。考課は5段階評価で、まず本人が自己評価をして、直属の上司が評価し、最終的に私と社長の2人が人事評価を行う。人事考課の内容はプリントに表示して、何ができて何ができなかったのかが一目瞭然で分かる。評価に不満があれば、従業員とじっくり話し合う。これを示すことで、従業員に対しても目標を明確化することができた」と人事考課の重要性を強調する。

 経営面で文字通り社長の右腕となった若女将は、従業員の待遇改善でも努力している。京都の旅館で高卒従業員の税込み月収は約17万円前後だが、19万円と奮発している。「優秀な人材を集めるためには、小規模な旅館では待遇を良くするしかない」と指摘する。さらに「従業員の平均年収を1000万円にする」という壮大な目標を掲げた。「いまの売上が約3億円なので、生産性を上げ、売上をあと2億円増やせば実現可能だ」と目標達成には自信がある。従業員に対しても伝えてあるそうで、これが少しでも仕事を頑張ってくれる材料になればと思っているという。旅館経営者や中小企業経営者が聞いたら、即座に実現不可能な大言壮語としか思わないだろうが、小野さんは近い将来の実現を視野に経営に当たっている。

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