経営が難しいと言われる従業員が20人程度の小規模旅館。日本最大の観光資源を抱える京都市内で、老舗「綿善旅館」を経営する若女将が、旅館業務のマニュアル化など効率化を実現することにより「従業員1人当たりの年収を1000万にする」という目標を掲げ日々、奮闘している。この斬新な取り組みが古い習慣のしみついた旅館の生産性を大幅に向上させたことが評価され、6月21日に首相官邸で開催される「第2回生産性向上国民運動推進協議会」で安倍晋三首相らの前で成功事例として紹介される。事業継承や人手不足など難題を抱える中小企業の経営者にとって「中小でもやれば、できる」事例として大いに参考になりそうだ。
創業は天保元年
京都市中京区で27部屋ある旅館の創業は江戸時代の1830年(天保元年)までさかのぼり、185年以上も続いてきた超老舗だ。富山の薬売りだった商人が京都に出てきて薬屋を営むかたわら、遠方から京都にやって来た呉服屋に宿を提供したのが創業のきっかけで、以来、暖簾を引き継いできた。
後を継ぐはずの男子がいなかったため、若女将になったのは3姉妹の長女の小野雅世さん(33歳)。大学卒業後に銀行員となり、旅館業経営にそれほど興味はなかったが、経営を手伝っているうちに古い体質が目に付くようになり、「これでは駄目だ」と痛感、2015年4月から若女将として覚悟を決めて経営に本格的に参画するようになった。数十代続いてきた商売人のDNAは、若女将にしっかりと引き継がれた。
正社員は20人、アルバイト・パートなどが20人前後という観光地によくある旅館だ。若女将という立場で経営をみたところ、「従業員の私物と仕事道具が混在しているなど、無駄なことが多すぎたので、まずは仕事場の整理整頓から始めた」。銀行員をしていた経験から非効率な点に気付いたため、従業員に直すように言っても、聞く耳を持たなかったという。
立て直し方法に手詰まり感が出ていた時に、京都のほかの旅館から生産性を向上させるモデル事業として応募してみないかという誘いがあったので、「全国にPRできる絶好の機会」だと思い、応募を決断した。16年に生産性本部の専門家に2週間ほど仕事ぶりを見てもらい、経営の見直し提言をしてもらった。