「地図に描かれている国境線はあまり意味がなくなり、輸送、エネルギー、通信のインフラネットワークがこれからの世界秩序を考えるキーワードになる」
インド出身のパラグ・カンナ・シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員は日本記者クラブで講演、「従来の国境線を土台にした地政学は再考すべきで、複雑化する世界情勢を理解するためには『接続性』(Connectography)をベースにした新しい解釈が必要になり、インフラによる都市間の『接続性』が新しい国際秩序を作る」と指摘した。
間違った地図
人類は6万年の歴史で、輸送、エネルギー、通信の3分野のインフラを構築してきた。特に冷戦終了後の25年間に、インフラの「接続性」の量が拡大し、あらゆる国境を圧倒するボリュームになっている。このため、これまでは自然環境を表した地図、政治状況を示した地図だったが、これからはインフラの機能を示した地図が最も重要になる。
しかし、この機能を表した地図はオフィスや学校の教室には掲げられていない。このことが今世紀、大きな心理的、メンタル面で大きな間違いを生んでいると言いたい。私はこの誤った世界の見方を変えたい、革命を起こしたいと思う。最近は世界の動きを「接続性」でとらえようとする機運が出てきている。
島国である日本にとって「接続性」は重要な意味がある。これからの「パワー」は、日本がその他の社会とどの程度「接続性」を持つかを地図の上に表し、定量化することが必要になる。
国境を超えたメガシティ
国境を超えた「接続性」がいかに重要かという事例を2つ挙げる。一つは、マレーシア、シンガポール、インドネシアの3か国で、もう一つは中国南部の広州から香港までの珠江デルタ地帯だ。2つの共通点は、インフラが国境を再定義し、2から3の当事者がインフラを通して経済統合で合意したことだ。マレーシアの中で最も急成長しているのがシンガポールに近い南部地域で、インドネシアと一緒に経済特区などができ、電機、造船、繊維、不動産などが伸びている。珠江デルタ地帯には、英国が香港を中国に返還された1977年以降、中国が相当程度の投資を行った結果、この地域はいまでは東京を上回るほどの世界で最大規模のメガシティになっている。予測では、珠江デルタ地帯は20年か25年までには経済規模は2・5兆㌦になり、インドより大きな規模になる。
世界の中では、40~50の都市が最も重要になり、「都市列島」ができてきている。世界の人口は頭打ちになりつつあり、100億人を超えることはないだろう。この中で、人口は大きな都市に集中するようになる。日本の企業がインフラに技術を輸出する場合は、こうした都市に向けられるべきだ。