おだやかに流れる川の風景は、日本人の心にしっかりと根付いている。「もし川がなかったら」と考えると、季節の風景はずいぶん味気ないものになりそうだ。田んぼを流れる小川から、街を蛇行する大きな川まで、人びとはその水辺に集い、散歩やジョギング、キャンプや魚釣りを楽しむのである。
また、オープンスペースとしてだけでなく、川はむかしから生活の一部として大切なものである。生活用水や農業用水としての利用、豊饒な漁獲による貴重な蛋白源の確保。昭和のひところまでは、舟を利用した交通・運搬路としても利用されてきた。
もちろん、川を必要としているのは、人間だけではない。川や流域の生き物や植物はもちろん、自然地理として見た川の必要性など、環境にとって川はたいへん重要なものである。
そうした、川と人間、川と自然環境がうまくバランスを保ち、私たちが川とふれあい、豊かな水環境を得ているのは、水質学や河川工学といった、川を研究する科学者たちの努力の賜物である。本書では、科学の知見によってふだん何気なく接している川がいかに支えられているかを紹介する。