オトナの教養 週末の一冊

2017年8月25日

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 「フンボルト」と聞いて頭に浮かぶのは、南米のフンボルトペンギン、フンボルト海流、その海流に乗ってくる巨大なフンボルトイカ・・・・・・。考えてみると、「フンボルト」の名を冠した地名や事物はじつに多い。

 本書によると、世界各地の地名のみならず、300種の植物と100種を超える動物の名がフンボルトに由来し、月面には「フンボルト海」まであるという。

 アレクサンダー・フォン・フンボルト(1769-1859)は、プロイセン王国(ドイツの一領邦)の裕福な貴族の家に生まれ、博物学者かつ探検家として活躍した。一世を風靡した偉人なのに、あらためて「彼の業績は」と問われると、返答に困る。フンボルトとはいったい、どんな人物だったのか?

 原題サブタイトルの「the lost hero of science」に惹かれて、本書を手に取った。

ダーウィンにも多大な影響を与える

『フンボルトの冒険  自然という〈生命の網〉の発明』(アンドレア・ウルフ 著, 鍛原多惠子 翻訳、NHK出版)

 本書の著者アンドレア・ウルフは、カバー写真によると、名前の印象とはかけ離れた金髪の優しげな女性。インド生まれで、幼時にドイツに移住、ロンドンでデザイン史を学んだ。

 執筆時の2013年は、大英図書館エクルズ・ライター・イン・レジデンスだった。「それは私のサイエンスライターとしてのキャリアでいちばん実り多き年になった。私はその年を一分一秒まで楽しんだ」と述べている。

 「本書はフンボルトを発見しようという試みである」と、著者は語り出す。なぜ、「発見」なのか?

 実は、私がフンボルトをはっきり思い出せなかったのと同様、フンボルトは「英語圏ではほぼ忘れ去られている」のだという。

 それにはいくつかの理由がある。まず、第一次世界大戦とともに芽生えた反ドイツ感情。次に、フンボルトがもたらしたものが「生命の網(ウェブ・オブ・ライフ)」の言葉に象徴される、自然そのものの概念だったこと。

 <彼は最後の博識家であり、科学が専門領域に細分化されようとしていた時期に他界した。(中略)細分化が進む中で、彼らはフンボルトの学際的手法と自然を地球規模の力と見なす概念をどこかで見失ったのである。>

 一方で、フンボルトの世界観は、「浸透力でもあるかのように私たちの意識に染み込」み、すでに世界観の一部になっている。それゆえに、多くの人は、それがフンボルトに由来することに気づかないのだ、ともいう。

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