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世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年8月29日

 中国が打ち出した中国パキスタン経済回廊構想は、パキスタンが拒否できない資金を提供し、インドは心中穏やかではないが、中国の資金力には太刀打ちできず、南アジアで中国が優位に立った、と7月22日付の英エコノミスト誌が報じています。論旨は以下の通りです。

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 中国の一帯一路の目玉と喧伝される中国パキスタン経済回廊(CPEC)は、パキスタンへの600億ドルの投資を約束している。その半分以上は発電用に割り当てられるが、道路、港湾、空港、光ファイバー・ケーブル、セメント工場、農産業、観光用にも多額の資金が残る。

 パキスタンにとり、中国のカネは天の恵みで、経済を活性化し、慢性的電力不足を解消してくれるだけでなく、インドに対する戦略的保険にもなる。中国は長年パキスタンに武器を供給し、同国の核開発についても技術援助と外交的口実を提供してきた。しかも、米国と違い、全天候型の友人だ。米国も経済的、軍事的援助をしてきたが、対テロで煮え切らないパキスタン政府に腹を立て、援助を渋ることが度々あった。

 しかし5月にCPEC計画が新聞で報道されると、多くのパキスタン人が不安を抱いた。同計画が、新疆生産建設隊(XPCC)のためにパキスタンの農業が大きな役割を果たすことを想定しているためだ。XPCCは中国国防省の機関で、1950年代から中国西部国境地域で漢族の入植を先導した。巨大な農場や工場に加え、幾つもの市を丸ごと管理運営し、軍隊式に組織された約300万もの人々を抱えている。

 今や石炭・ガスよりも太陽光発電の方が安価なのに、中国が火力発電に拘ることや、人口過密な巨大都市カラチから30キロの地点に大規模原子炉を建設していることも懸念を呼んでいる。この型の大規模原子炉は前例がない上に、現場は地震が起き易い大断層の上にある。

 既に工場主たちは2007年の対中自由貿易協定によって自国製品が競争力を失ったとこぼしている。エコノミストたちもパキスタンは中国のカネのために国の将来を抵当に入れつつあるのではないかと懸念している。実際、スリランカ等、中国の援助を受けた国は債務返済に苦しんでいる。

 しかし、パキスタン政府は、新聞の情報は2015年のもので、計画はその後見直され、原子炉は厳しい安全基準に基づいて建設されているとして、こうした不安を一蹴する。

 一方、パキスタンにおける中国の存在感の拡大に狼狽しているのがインドだ。インド政府は、中国もいずれパキスタンの将軍たちにしてやられるか、同国のdeep stateとイスラム過激派との関係を知ることになる、と言って平静を装うが、内実は、心配している。いずれインドとの関係正常化を望むようになると思っていたパキスタンが、「CPECによって中国の影響圏に入ってしまう」というわけだ。

 インドは中国の地域的イニシアチブに対して強硬路線を採り、一帯一路は小国を負債へと追い込む無駄な巨大事業だと強く批判してきた。

 両国はヒマラヤ山脈という天然の障壁のおかげで、1962年の国境戦争以降、冷ややかだが平静な関係を保ってきた。中国はインドの主たる貿易相手国であり、両国の貿易は年間800億ドルと中パ貿易の5倍だ。

 インドはバングラデシュ、ネパール、スリランカで道路、橋梁、水力発電所、港、鉄道等の建設プロジェクトを行い、南アジアで影響圏を保とうとしているが、GDPがインドの5倍で、有権者を慮る必要のない、中国の気前の良さには敵わない。

 もっとも、中国はインドのことなど眼中にないかもしれない。中国は、米国の衰退で世界は多極化したと言うが、その真意は中国こそが新たな唯一の極だ、ということだ。

出 典:Economist ‘China makes Pakistan an offer it cannot refuse’ (July 22, 2017)
https://www.economist.com/news/special-report/21725101-leg-up-all-weather-friend-china-makes-pakistan-offer-it-cannot-refuse


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