食の安全 常識・非常識

2017年9月8日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

食品事業者は厳しい対策を講じているが……

 食品工場や店で野菜や肉などを用い調理する事業者は、菌を水で洗い流して除去したり、加熱や食品添加物で殺菌したりしています。事業者はそのノウハウを持っていますし、HACCPという名称の工程管理法などもあります。もし菌が付いていたとしても増えないように、調理後の低温での管理も徹底します。

 また、不顕性感染については、多くの事業者が調理者に定期的に検便検査を受けさせており、菌を保有していないかどうか、チェックしています。

 食品工場の中には、トイレから出る時に、しっかり手洗いし、さらに手を紫外線照射で消毒してからでないとドアが開かない仕組みになっているところがあります。また、調理作業を始める前には全員、手洗いをしてアルコールや紫外線等で殺菌し、そのうえで手袋をして調理作業をすることで、仮に不顕性感染者がいたとしても、菌が食品に移ることを防いでいます。

 これらの方策は、腸管出血性大腸菌だけでなく、ほかの菌やウイルスからも食品を守っています。

 でもね。

 やっぱり菌やウイルス汚染を完璧に防ぐのは難しいのです。どこかで、だれかが小さなミスをしても、これらが死なず食品に移り、汚染します。

 腸管出血性大腸菌は毎年、真夏には感染者が急増します。

例年、8月〜9月(30週〜36週)に感染者が急増している。2017年は、報告数が16年を上回っている
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ポテトサラダの事件は、これまでにも起きている

 今回のポテトサラダの事件も、どこかでミスがあったのでしょう。ただし、日本のマスメディアにはポテトサラダという料理が驚きだったようですが、意外でもなんでもありません。日本では1996年に帯広市内の給食で、ポテトサラダの食中毒が起きています。どの食材が感染源だったのかは突き止められていません。

 また、海外に目をやると、米国で2014年、ケータリング会社のポテトサラダで食中毒事件が起き、74人が発症しています。5カ所で患者が発生し、3カ所にはポテトサラダが提供され、2カ所ではポテトサラダはなかったものの、3カ所のポテトサラダにも入れられていたセロリが提供されていました。そのため、感染源はセロリだった可能性が高いと考えられています。セロリを生産したカリフォルニア州の農場の水や土壌が検査されたもののO157は出てきませんでした。土壌の一部を調べるような調査で原因を突き止めるのは難しいのです。

昨年、「きゅうりのゆかり和え」により10人死亡

 肉は加熱しないと危ない、とだれもが思っていますので、むしろ注意が行き届く傾向にある一方、野菜は油断を招きます。野菜が原因のO157事故は近年、欧米でも日本でも多発しています。実は昨年、東京と千葉の2施設で、「きゅうりのゆかり和え」が原因で食中毒が発生し、お年寄りが10人も亡くなっています。知らなかった人が多いのでは?

 惣菜店のポテトサラダには騒いでも高齢者福祉施設の食中毒事故は注目されないのです。

 この2施設は、同一の給食業者が委託を受けて、厨房で給食を調理し提供していました。この業者は、ほかの施設でも「きゅうりのゆかり和え」を調理して出していましたが、熱湯や食品添加物できゅうりを洗浄して調理していた施設では、食中毒は発生していません。しかし、食中毒を出した2施設は、水で洗ったのみでした。このため、おそらくきゅうりが大元の感染源ではないか、と考えられましたが、確定はできませんでした。

 これほど怖い菌なのです。ささいな違いが文字通り、生死を分けます。もう少し警戒すべき、と思いませんか?

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