腸管出血性大腸菌O157の感染が広がっています。惣菜店で販売されたポテトサラダが原因と見られる事件が注目されましたが、厚労省によれば遺伝子型が同型のO157感染が関東を中心に広域で見られるとのこと。腸管出血性大腸菌は、ごく少数の菌で発症する恐れがあり、亡くなったり重い後遺症を患ったりします。食品を介して広がるだけでなく、人から人へとうつるケースも多く、今夏の“流行”も、ポテトサラダだけでなくほかの感染ルートがあるとみられています。
事件が起きると、どうしても“犯人捜し”が過熱し、さらには「ポテトサラダの買い控え」というような現象が起きがちです。実際に、売れ行きが落ちた、という話を事業者から聞きました。しかし、そんな短絡的、かつ他人任せの対策では、感染は防げません。どうやってこの恐ろしい細菌の感染から自分の、家族の身を守るか? ポイントを解説します。
数個食べて発症する可能性も
腸管出血性大腸菌は、口から体に入って感染します。微生物による健康被害の大きさは、次の三つで決まります。
健康被害の大きさ=「病原体の特性」×「病原体を食べる量」×「食べる人の体調・特性」
腸管出血性大腸菌は、O157やO111、O104など種類がいろいろあり強い毒性を持っています。しかも、ごく少数の菌で発症するという非常にやっかいな特性があり、数個を口にした程度でも発症する可能性を否定できない、と考えられています。
口から入ると、消化酵素や強い胃酸をかいくぐり人の腸に到達してそこで増殖し毒素を出します。腹痛や血便などに見舞われ、重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症となり死にも至ります。後遺症として腎臓透析が必要になる場合も。1996年に大阪府堺市で学校給食により起きた腸管出血性大腸菌の食中毒事件では、20年後に患者が後遺症により亡くなっています。
そのうえ、かなり大きく関係するのが、感染した人の体調・特性。健康な大人なら大丈夫な菌数でも、子どもや高齢者、それに病気などにより免疫システムが不調になっている人であれば発症し、重症化します。
人から人への感染も
腸管出血性大腸菌はもう一つ、非常に怖い理由があります。私たちの身の回りに当たり前にいるのです。
牛の1~2割は腸管出血性大腸菌を腸に保有しており、症状は出ません。と畜して肉にする時にこの菌が肉に付いたり、腸から菌が逆流して肝臓内に入り込んだりしている可能性があります。したがって、牛肉や内臓を調理した包丁、まな板等をそのまま、ほかの調理に使うのも厳禁。菌が移ってしまうかもしれません。
また、牛の糞尿は堆肥化されて畑などに戻されています。このときに、腸管出血性大腸菌が畑に移り、土壌中で生き続け、野菜などに付いている場合があります。
さらに警戒すべきは不顕性感染。人が、肉や野菜等から感染していても症状が出ない状態がこう呼ばれています。健康な大人では、こういう人がいます。症状は出ず、皮膚を通して菌が出てくることはありませんし、口から吐き出すこともありません。でも、便と一緒に菌を排出します。したがって、トイレに行った時に菌が手についてしまい、手洗いが不十分……という状態で食品を扱うと、食品に菌が移ります。その食品を食べた人が感染するのです。
加えて、不顕性感染の人の手からほかの人の手へ菌が移り、その人がうっかり手で唇を触り、口から菌が入ってしまう、という感染ルートもある、と考えられています。