前向きに読み解く経済の裏側

2017年9月18日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

合併銀行の自己資本不足には、公的資金で対応の要

 本当の問題は、何らかの理由によって合併銀行が巨額の損失を被って自己資本不足に陥った場合、地域経済に大きなダメージを与える可能性があることです。自己資本不足になると、合併銀行は、「自己資本比率規制」を守るために、短期間に貸出残高を減らさなくてはなりません。

 自己資本比率規制というのは、厳密な説明は長くなりますので、ここでは正確さより理解しやすさを優先して、「銀行は、自己資本の12・5倍しか貸出をしてはいけない」という規制だと考えて下さい。つまり、自己資本が減ると、減った分の12・5倍だけ「貸して良い金額」が減ってしまうのです。

 銀行が規制を守るためには、借り手企業側には何の問題もない場合でも、貸出残高を減らさなくてはいけないのです。つまり、借り手企業としては、ある時に突然銀行から融資の打ち切りを求められることになるわけです。1990年代に日本経済を深刻な不況に陥れた一因として記憶に残る「貸し渋り」です。これは深刻な事態を招きかねません。

 競合している銀行があれば、そちらから借りるという選択肢があり得ますが、独占的な銀行が貸し渋りを行なった場合、借り手は深刻な資金不足に陥る可能性が高くなります。「他県の地銀から借りれば良い」というのは理屈ですが、他県の地銀にとっては見知らぬ借り手ですから、「御社の返済能力を慎重に調べさせていただきます」というわけで、融資実行までの時間がかかるのが普通です。特に、多数の借り手が一斉に近隣他県の地銀に融資を申し込めば、融資実行までの期間は長くなり、倒産する借り手も増えるでしょう。

 独占銀行が「高い金利を払ってくれる借り手から順番に貸します」と言い出す可能性も皆無ではありません(独占利潤の確保)が、問題は金利よりも量なので、そこは主要な論点ではないでしょう。

独占銀行の自己資本不足には、あらかじめ対策案を策定すべし

 地銀が合併して県内で独占的な地位を占めるようになる場合の主なメリットとデメリットは、以上の通りです。合併により過当競争が緩和されるメリットは大きなものがありますが、独占銀行が独占利潤を貪るデメリットは大きくありません。そもそも独占利潤が貪れるようになる可能性も大きくありませんし、その場合の独占利潤も深刻なものではないでしょう。

 例外は、何らかの事情で独占地銀が自己資本不足に陥って貸し渋りをする場合です。それならば、「独占地銀が自己資本不足に陥った場合には速やかに公的資金を注入して自己資本の再充実を助ける」という申し合わせを予め関係各所で取りまとめておけば良いのです。

 万が一の場合でも被害を最小限に食い止める手段があらかじめ講じられ得るならば、そうすれば良いだけです。そうした手段を模索もせずに、「万が一のリスクを恐れて合併を却下する」などということは、あってはなりません。

 そう考えると、今回の公取の判断は、残念です。公取に言わせれば、「金融庁、当該銀行、長崎県等が協力して、万が一に備えた申し合わせをすべきなのに、そうした努力をしないのが悪い」ということなのかもしれませんが。

  
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