世界の記述

2017年10月31日

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工藤律子 (くどう・りつこ)

ジャーナリスト

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学大学院地域研究科修士課程修了。『マラス―暴力に支配される少年たち』(集英社)で第14回開高健ノンフィクション賞受賞。他、『マフィア国家―メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)など著書多数。

 知る権利と表現の自由を守る国際NGO「アーティクル19」によると、麻薬犯罪組織間の抗争に警察や軍が絡んだ「麻薬戦争」の続くメキシコでは、この17年間に100人を超えるジャーナリストが殺害されている。しかも今年上半期に起きた殺害、誘拐、脅迫などのジャーナリストへの暴力276件中、約半数は警察や軍、役人といった「公務員」によるものだという。

 「被害者の多くは、政治家の汚職や麻薬犯罪組織との関係を取材していました。政府機関の一部には犯罪組織の人間が入り込んでおり、もはや誰が加害者なのかを判別するのも難しい状態です」と、同NGOは説明する。

 「2014年5月13日、自宅の留守番電話に、『お前を殺す』という男の声が録音されていました。悪い冗談かと思いましたが、同時期に同じような脅迫を受けた5人のジャーナリストのうち、3人が殺されました。それでアーティクル19に安全対策を要請しました」

 メキシコの主要な新聞、雑誌で執筆を続けるマルタ・ドゥラン氏(55)は、それ以来、自宅に複数の監視カメラを設置し、常に緊急連絡ができるように携帯電話数台を異なる場所に置いている。脅迫事件はちょうど、彼女がメキシコ州で起きている女性の誘拐殺人事件と、その背後にある犯罪組織と役人の関係に触れる記事を書いたときに起きた。

女性の誘拐殺人事件を取材し、脅迫を受けたマルタ・ドゥラン氏(写真・RITSUKO KUDO)

 真実を報道しようとすれば命が危うくなる。しかし、「ジャーナリストが誠実さを失えば、もはやジャーナリストではない」と語る彼女は,同じ信念を持つ仲間とともに、取材・執筆活動を続ける。

 彼らは危険を減らすべく、自らに対する暴力を記録し、検察に届け、犯人の捜索を促す努力を続けている。しかし、過去17年間に届け出た1000件以上の事件のうち、犯人が逮捕され裁判による判決が下されたケースは、0・4%にも満たない。

 この現状を打開するために今、「企業家組織、NGO、労働組合など、300近い団体が一つに結集し、議会を動かそうとしている」と、アーティクル19は話す。

 「行政機関の一部だった連邦検察庁が来年、政府から独立した機関となることに合わせて、その独立性が確実に保たれる人事を上院に働きかけています。誰が権力を握っても、連邦検察庁が常に自立した形で誠実な仕事を行いさえすれば、ジャーナリストの命と表現の自由は、保障されるに違いないからです」

  
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◆Wedge2017年11月号より

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