世界の記述

2017年10月19日

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 サウジアラビアは、2016年4月、ムハンマド副皇太子(当時。現皇太子)の強力な指導の下、大胆な経済改革計画「ビジョン2030」を発表した。同計画は、①脱石油依存経済の確立、②雇用の創出、③効率的な行政の3つを目標に掲げている。

 脱石油依存経済では、現在5兆円弱の非石油収入を約6倍の30兆円弱に増やすことを標榜し、雇用の創出では今は22%に留まる、労働力に占める女性の比率を30%へと引き上げることを目指している。さらに、効率的な行政では、国営石油企業アラムコの新規株式上場(IPO)による株式の5%売却で得る予定の1兆円強を元手に、産業育成・民営化推進を図るとしている。

 とりわけ注目されるのが、過去1年半にわたり打ち出された女性の役割・権利を見直し、社会進出を後押しする政策である。例えば、サウジでは結婚時に契約書が交わされるが、5月初旬、そのコピーの女性への手交が義務化された。以降、結婚契約書の登録を行うイスラム教の聖職者は、花嫁が契約書の条項や権利を正しく把握できるようコピーを手渡すようになっている。管轄する司法省は、女性の権利を守ると共に、離婚裁判を想定し、女性に不利にならぬよう配慮した措置と説明している。

 87回目を迎えた9月23日の「建国記念日」の行事会場では、史上初めて女性の姿が見られた。父親や夫、許婚、男性の兄弟と一緒との条件付きで、行事会場入りが許されたからである。 

 女性の社会進出を促す一連の措置の中で世界を最も驚かせたのが、その3日後の9月26日に明らかにされた、女性に自動車の運転を認めるとのサルマン国王の勅令である。国内の女性活動家は「女性の権利が進展しつつある証左」と述べ、決定を歓迎している。

(iStock.com/ferozeea)

 サウジ政府が女性の社会参加を促し、女性の役割を見直す動きを強めているのは、外国企業の一層の国内事業への参加や、観光業等での外国人への国土開放等を謳う「ビジョン2030」が、今後、宗教界等の国内保守派から強い抵抗を受ける事態を想定してのことと筆者は見る。要は、人口の半数を占める女性を味方につけ、国内保守派の反対を押し切ろうとの戦略である。

 同様に、国内コンサートの開催や娯楽産業の推進にも、国民の約6割を占める30歳以下の支持を得ると同時に、補助金の削減・撤廃で以前のような経済的恩典を失う若者たちの不満を和らげるとの狙いがありそうだ。

 要は、経済改革として打ち出された「ビジョン2030」だが、実態的には文化・社会改革の側面が極めて強いということである。翻って考えると「ビジョン2030」の成否は、同様の文化・社会改革が必要になるアラブ・中東諸国の今後を占う試金石といえそうだ。

  
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