食の安全 常識・非常識

2017年11月2日

»著者プロフィール
著者
閉じる

松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

 神奈川県大磯町の中学校の給食問題、皆さんはどのようにご覧になっていたでしょうか。2016年1月から事業者委託の弁当方式ではじめられた給食。異物混入が相次ぎ味も悪く残食が多いとして、今年9月に問題が表面化しました。

 町によれば、16年1月からの異物混入は84件(毛髪39件、繊維14件、虫7件、ビニール片4件など)。毛髪が束になって入っていた、という苦情もあったとされています。しかし、工場内で入ったことが明確なのは毛髪3件、繊維2件、虫1件、ビニール片4件など計15件にとどまっています。

 報道によれば、事業者は10月13日を最後に納品を中止し、町は別の事業者に弁当提供を要請していますが、3社に断られたとのことです。

 断られるのは当たり前でしょう。事業者にしてみれば、弁当を提供し始めたときに、努力いかんにかかわらず、同じように苦情が多発するのが目に見えているからです。

 食品に毛髪や虫等の異物が入っていた、という事例はよく、世間を騒がせますが、その多くは実は、生産の際には入っていません。消費者段階で入っています。しかし、事業者は謝っているのです。原因を突き止めるにはコストと時間がかかります。さっさと謝ったほうが多くの場合、騒ぎになりにくく、クレーム内容がSNSなどで一方的に流されることもなく、最小限の影響で済みます。

 「業者の管理がずさん」などと消費者の苦情をそのまま報道するメディアは、食品業界の異物混入苦情の実情を知っているのでしょうか。SNSで情報を広げる人たちは、消費者の勘違いやいたずらの可能性すらある、ということをどれほど意識しているでしょうか。

 日本の異常な異物混入苦情の一端をご紹介しましょう。

話題になると、苦情件数も跳ね上がる

 異物混入は、なにか社会的な問題が発生すると、件数が跳ね上がります。工場での発生頻度が大きく変動するはずがありません。つまり、消費者の関心の度合いにより、苦情を申し立てる件数が増えるのです。少々古いデータですが、日本生活協同組合連合会のグラフが、その変動ぶりを表しています(図1)。

図1 商品苦情件数の年間変動(2000年、2005-2009年度)
※日本生活協同組合連合会商品苦情データベースを基に佐藤邦裕さん作成
事件事故が起きると苦情件数が跳ね上がるのが見て取れる
(出典:「食品と科学」2012年8月号) 写真を拡大


 2015年にマクドナルドで異物混入が騒動になったときにも、件数が跳ね上がった、と企業は口をそろえます。苦情が多いのは毛髪や昆虫類、プラスチック片や金属類などです。消費者の訴えを元に、「食の安全が揺らぐ」などと報じるのがメディアの通例でしょう。

写真1 冷凍野菜の工場

混入防ぐため、何重もの対策

 実際には、多くの食品工場で作業者は写真のような状態です。

 頭部はネットを被って毛髪を納め、さらに帽子を被り二重に毛髪の落下、食品への混入を防いでいます。口にはマスク。全身を作業着で覆い、手には手袋。見えているのはほぼ目だけ。人は雑菌の塊なので、異物混入だけでなく、微生物が人からうつるのを防ぐ意味からも、できるだけ覆っているのです。

 目だけが出ている状態になり、粘着シートでロールがけして作業着に付いた毛髪やちりなどをとり、さらにエアシャワーを浴びて微生物やほこりなどを吹き飛ばした後に工場に入り作業します。

 この後、作業中に毛髪がばらばらと大量に落ちるでしょうか?

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る