世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月9日

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 独立を問うイラク・クルドの住民投票に刺激されて、イランのクルドが独立を要求する声を上げ始め、イランの支配者たちは懸念と警戒を強めている、と9月30日付英エコノミスト誌が報じています。その要旨は以下の通りです。

(iStock.com/MrKornFlakes/sguler/Stocktrek Images/Ozbalci)

 イラン・クルドがイラク・クルドと同等か、それ以上に強い独立要求の声を上げている。イラク・クルドによる住民投票後、イラク・クルド地域はおしなべて静かなのに対し、イランのクルド地域では祝賀ムードが爆発した。いくつかの都市では装甲車が走り、デモが2日間続き、群衆は1946年にイランの北西部で短期間威力を振るったクルド国家、マハバード共和国の国歌を歌った。

 一方、イランを支配する聖職者たちは怒りをあらわにし、イラク・クルドの自治の試みを潰すと威嚇し、自称クルド国家をイスラエル(クルド独立を支持)になぞらえ、もう一つのガザにすると断言した。

 イランはイラク・クルドの独立国家が出現すれば、自分たちがレバノンのヒズボラを使ってイスラエルを脅かすように、宿敵イスラエルやサウジがイランを掻き回すための踏台にする誘惑にかられるのではないかとも恐れている。それに、イランはペルシャ人主体の国だが、クルドの外にもアラブ、アゼルバイジャン・トルコ人、バルーチ人等、多くの少数民族がおり、人口の3分の1近くを占めている。イランの支配者たちは、クルドが図に乗れば、他の少数民族もそれに倣うかもしれない、と心配している。

 実際、4月には分離主義のバルーチ人一派がイランの国境警備員10名を、5月には過激派アラブが警官2名を殺害した。イランのシーア派政権の打倒を標榜するISへのイラン・クルドの流入も続いている。ISによるイラン国会やホメイニ廟襲撃の実行犯もおそらくイラン・クルド過激派だろう。イラク・クルド地域をとり囲むイラン、シリア、トルコ、イラクはみな今回の住民投票がクルド・ナショナリズムの復活を誘発するのではないかと恐れている。シリアには200万人以上、イラクとイランには500万人、トルコには1800万人のクルドがいると考えられている。トルコはイラク・クルド地域との境界に戦車を配備し、エルドアン大統領は同地域の唯一の石油輸出用パイプラインを遮断し、国境を閉鎖すると脅している。

 しかし、4ヵ国の中で最も心配すべき歴史的理由があるのはイランだ。クルドはオットマン帝国とペルシャ帝国に挟まれた山地で7世紀にわたり事実上独立の領土を有していた。それに、トルコ・クルドがアレヴィー派(シーア派の仲間とする見方もある)であるのに対し、イラン・クルドとイラク・クルドは同じ方言を話し、大半がスンニ派のシャーフィイー学派を信奉するなど、関係が近く、双方の政治運動は国境を越えて提携する傾向がある。

 イラン・クルドが本格的な反乱を始めても、優勢なのはイラン軍の方だろう。マハバード共和国は数か月で潰され、1979年のイスラム革命後のクルドの反乱も直ちに鎮圧された。それでもなお、今回の住民投票はイランの指導者たちをもう一度恐怖に陥れている。

出典:Economist ‘Iran’s Kurds are growing restless, too’ (September 30, 2017)
https://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21729790-referendum-held-iraqi-kurds-revving-up-their-iranian-cousins-irans-kurds

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