世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月16日

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 エコノミスト誌が「『シーア派アラブとクルドの間の新しいイラクでの戦争』イラクの指導者はクルドからキルクークとその油田を奪取するために行動している」との記事を10月16日付けで掲載、キルクークへのイラク軍侵攻とその背景を報じています。記事の概要は次の通りです。

(iStock.com/PeterHermesFurian/ prill/tanuha2001/tintin75)

 豊富な石油と多くの民族集団と宗教によりキルクークは常に争われてきた。2014年、ジハーディストが制圧したが、それはクルドにキルクークを奪取する機会を提供した。しかし「イスラム国」が敗北させられている今、キルクーク支配をめぐる紛争が再燃した。

 10月16日未明、イラク軍はキルクークに進撃、油田、市外の軍事基地、市の中心の行政用建物を接収した。石油生産は一時的に止まり、多くの文民がキルクークを脱出した。今までのところ、死傷者の数は少ない。ペシュメルガ(注:クルド民兵)戦闘員はほとんど抵抗せず撤退した。しかし、若干のクルドは上の指示でキルクーク防衛のために立ち上がった。

 いくつかの要因が緊張を高めている。

 第1は、バルザニ議長が強行した9月のクルド独立の住民投票である。イラクのアバディ首相は分離を阻止すると誓い、クルドの諸都市への国際航空便を止めた。

 アバディ首相は、住民投票は1991年の自治区設置以来、クルドが得た「すべて」を失わせると述べた。キルクーク油田の喪失は、財政的に逼迫しているクルド自治政府から歳入の多くを奪うことになる。

 イランは国境を閉鎖し、クルド地区の通商ルートを阻害している。先週はコレク・テレコム(バルザニの甥が経営する携帯電話会社)が襲撃されたが、イラクでのクルドのビジネスも攻撃されている。

 第2は、米・イラン間の緊張の高まりである。米国の外交官はアルビルとバグダッドを往復、アバディとバルザニにそれぞれの兵力を自制させるように求めている。しかし、トランプは10月13日、核合意を非難し、イランの革命防衛隊(IRGC)をテロ組織に指定すると脅し、そういう努力を掘り崩している。

 IRGCはトランプの大言壮語に力で対抗した。IRGCの対外工作の責任者ソレイマニ将軍はキルクーク侵攻の前にイラクに行き、イランと緊密な関係のある人民動員部隊と連邦警察が攻撃を主導した。シリアでも、イランの同盟者が前進している。10月14日、シリア軍はユーフラテス川のマヤディンをイスラム国から奪取した。

 これらの地域的戦闘の裏には、イスラム国が撤退した肥沃な三日月地帯の奪い合いがある。地域の民兵や地域勢力が既成事実を作ろうとしている。イスラム国の首都ラッカは米の支援するシリアの反政府勢力が取りそうであるが、シリア政府とイラン・シーア派の同盟者がシリアの国境を支配する競争に勝ちそうである。

 合意を求めている者もいる。アバディ首相はイラク政府とクルドの高官が関与する共同行政をキルクークで作ることを提案した。しかし、「イスラム国」との闘争での昔の同盟者がお互いに武器を向ける中、交渉の呼びかけは遅すぎるように見える。

出典:‘A new war in Iraq, now between Shia Arabs and Kurds’(Economist, October 16, 2017)
https://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21730328-iraqi-leaders-act-retake-city-and-its-oilfields-kurds-new-war

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