WEDGE REPORT

2017年12月3日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞前論説委員長

産經新聞前論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

国連大使も「戦争」に言及

 最も危険、誰もが避けたいのは、武力行使、戦争だが、米国のヘイリー国連大使は11月29日の国連安全保障理事会の緊急会合で、「米国は望まないが、戦争はより現実味を帯びてきた。そうなれば北朝鮮の体制は完全に崩壊する」と述べ、可能性を示唆した。

 北朝鮮が米国の本土やグアムなどに対して、先制攻撃を仕掛けてくることはあり得ない。そういうことをすれば、これまで営々と築き上げてきた核施設が報復によって完全に破壊されるだけでなく、体制の存続はおろか、金正恩の生命すら危険にさらされるからだ。戦争になるかならぬかは、一つにかかって米国、トランプ大統領が武力行使を決断するかにかかっている。

 攻撃を断行したとしても、〝撃ち漏らし〟が生じるのは避けられず、報復による甚大な被害を考えた場合、トランプ大統領としても、すぐに武力行使は難しいだろうという見方は、米国内でも強い。

 しかし米国の専門家らは、ヘイリー大使の発言などに加え、最近、武力行使慎重派のマティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らの発言があまり伝わってこないことなどから、武力行使の可能性もあながち否定できない、という憶測もなされている。

 やはり武力行使に慎重なティラーソン国務長官の更迭問題も、こうした見方を勢いづけている。ティラーソン長官は一貫して外交努力による解決を主張、〝火星15〟の発射後も、外交努力にこだわる姿勢を変えなかった。

 武力行使になった場合、最も大きな影響を受けるのは、日韓両国であり、米国の専門家の中には、安倍首相の影響力に期待する向きも少なくない。「トランプ大統領は安倍首相のアドバイスに耳を傾けるから、とにかく、武力行使が不可であると徹底的に説いてほしい。韓国と中国の首脳も、同様に説得すべきだ。日中韓3国の首脳が協力することも必要だ」とは、元米国務省の朝鮮半島専門家が筆者に語った言葉だが、日中、日韓関係の複雑さを考慮しても、なおという響きが感じられた。

 首相は、すべての選択がテーブルにあるという米国の政策を支持すると繰り返しているが、大統領との信頼関係が本物かどうか、試される時が来るかもしれない。

前提条件なしでの交渉も

 第2のシナリオ、対話・交渉による解決は、現時点では、最も可能性が少ない。しかし、依然として多くの国、多くの人々が望む解決手段ではある。

 意外に感じるかもしれないが、北朝鮮が挑発を中断していた期間だけでなく、それ以前から、米国と北朝鮮は、さまざまな形で接触を持ってきている。米国と国交がない北朝鮮にとって、米国内での唯一の公館はニューヨークの国連代表部であるため、ここを通じて米側との接触、協議が折に触れて行われる。「ニューヨーク・チャンネル」といわれ、表舞台に登場することは少ないが、常に活用される重要な窓口だ。

 今年春には、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表がオスロで、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と会っていることも、米朝接触が頻繁であることを裏付けている。
 
 ただ、交渉を行うにしても、現時点では、その糸口をつかむのが難しい。交渉が実現しても、何を与えて何をとるのか、つまり、交渉の条件を設定するにも困難がある。核開発を断念する意思のない北朝鮮は、「核」が議題ならば、交渉に応じないと宣言しているからだ。トランプ大統領がイランとの核合意について、否定的な認識を示していることも、北朝鮮にとっては、警戒要因になっているとみていい。

 しかし、とりあえずは、前提条件なしで話し合う可能性を模索する動きも米国内ではあるともいう。条件抜きでとにかく双方が顔を合わせて信頼関係を築くことから始めるー。それによって何らかの展望が開けてくる可能性もあるという期待感だ。願望に近いというべきだろうが、きっかけさえつかむことができれば不可能ではないだろう。

 その場合、かつての6か国協議の再開、米朝2国間対話、6か国協議の原型ともいえる、米朝に中国を加えた3か国協議などさまざまななど方式がありうる。情勢の緊迫にかかわらず、米朝による水面下、秘密裏の接触が静かに進むだろう。

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