2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月5日

 この社説の趣旨は常識的です。今の段階では、北朝鮮に最大限の圧力を加えるのが正解です。まだやり残していることがあると言う指摘もその通りです。中国の会社・銀行への「二次制裁」、石油の禁輸、北朝鮮の労働者雇用の制限、金融制裁など、まだやれることが多くあります。

 要するに、北朝鮮をできるだけ孤立させることが肝要でしょう。そんなことをすると、北は暴発すると心配する人がいますが、北は暴発したら、一挙に潰されることがよくわかっており、暴発などしないと見られます。「ICBMの実験をしたから、北を攻撃する」というのは、国連憲章を中心とする国際法を尊重する以上、出来ないことです。北はそれを見越しています。こちらが自衛権行使しうるような暴発はしないと考えておいてよいでしょう。

 北を孤立させていく上で障害になるのは、主として中露です。中国は米中関係を重視せざるを得ませんし、北の行動には相当な不満を有しているとみて間違いがありません。しかし、ロシアの方はクリミア併合以来、米、欧との関係が悪く、米国との関係のさらなる悪化をコストとして考えない傾向が強いです。ラブロフ外相は、米国の圧力強化方針を批判しています。ロシア外交は、緊張を作り出しその緩和を材料に利益を引き出すことを伝統的に得意技としており、注意が必要です。

 中国には、北に対するTHAADなどミサイル防衛の強化が、中国自身の核戦力の有効性にも影響を与えることを示していくべきでしょう。文在寅がTHAADで対中妥協をすることを止めることが、中国に北朝鮮問題に真剣に取り組む動機を作ることにつながるでしょう。

 日本は長い間、北の中距離弾道ミサイル(IRBM)の脅威のもとにあります。米全土を射程内に収めたICBMは米国への脅威であり、日本との関係では、米国がニューヨークを犠牲にする覚悟で東京を守るかという「デカップリング」の問題になります。これがないならば、日本への脅威には大きな変化はありません。しかし、日本の脅威への対応は敵基地能力保持の問題にしても、遅々として進んでいません。「核の北は容認しない。抗議する」と言って済む話ではなく、対応をよく考える必要があります。

 なお、ニューヨーク・タイムズ紙は今回のICBM実験を受けて、11月29日付けで「北の核のテストは希望のサインなのか(Is North Korea’s Nuclear Test a Sign of Hope?)」と題する社説を掲載、「核戦力ができるまで北は外交に出てくることはなかったが、核戦力が出来た今、外交交渉に乗り出し得るようになった」など、理解に苦しむ情勢分析、主張を展開しています。対話での問題解決模索を重視するアプローチのつもりでしょうが、こういう主張が北の核・ミサイル開発をここまで進めさせた一因であるように思われます。

  
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