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2018年1月12日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)などがある。

手厚い老人生活手当、充実した医療

 また、老人の日常生活とは別に、香港政府は2000年から健康促進プロジェクトを行ってきた。老人が運動できる公共施設や体育館を増やしたり、禁煙運動を行っている。実は、香港は1997年の中国返還の頃は、平均寿命が今ほど高かったわけではない。男性76歳、女性81歳と、現在より5歳以上も低かった。そのため、政府が同プロジェクトに乗り出し、高齢者支援を積極的に行ってきたという経緯がある。

 香港では65歳以上を対象に「長者カード」というものを発行するようになった。高齢者のためのカードで、一定の条件をクリアしていれば、誰でももらえる老人生活手当だ。条件とは(1)カードの申請前の1年間、継続して香港に居住していること (2)香港居民として7年以上経過していること (3)資産や月収額など一定の条件をクリアしていること(資産が多すぎないこと)。これらを満たしていれば、積み立てなどしていなくても、誰でも月額2490香港ドル(約4万円)を支給してもらえる。

 それ以外にも、70歳以上を対象に、「生果金(くだもの代)」と呼ばれる手当もあり、これは(1)と(2)をクリアしていれば支給される。「長者カード」との二重取りはできないが、こちらも月額1290香港ドル(約2万円)ほどもらえるため、老人同士、頻繁に飲茶にも通うことができるだけのお小遣いになる。

 そのほか、政府は年間(1人当たり)2000香港ドルの「医療チケット」を配布したり、75歳以上の低所得の老人には基本的な医療費を無料にしてきた。香港の医療水準は高く、【前編】で紹介したように、街中の漢方店も充実している。公共住宅への優先的な入居や家賃補助なども行っている。政府の地道な取り組みと、もともとの生活習慣がうまくマッチしたことが「長寿世界一」という“快挙”へとつながったのだろう。

 私自身は、何といっても日々の生活でストレスが少ないこと、医療が発達していることが、香港人の寿命に大きく関係しているように感じている。

 陸続きの中国では、とにかく人間関係に頭を悩ますことが非常に多い。システムや社会的な制度がまだ完全に整っていない中国では、個人的な人間関係やコネで問題を解決しなければならないことが多く、いつも人に気を遣って生活するのが普通だ。相手のメンツを重んじたり、重んじられたりする機会が多く、人間関係が常に生活の中心にある。医療水準も、近年は急激によくなってきているものの、人口が多すぎるため、評判のいい病院では順番待ちが長すぎて、VIP待遇の人以外は、適切な医療をすぐに受けられないこともある。

 だが、香港では97年の返還以前、150年以上もの間、イギリスの植民地だったため、システムや制度はイギリス流に整えられており、ビジネスや日常生活も適度に西洋化されている。地域のコミュニティを残しつつ、人間関係が中国ほど濃すぎないのも、香港のよいところ。むろん、中国の影響も強く受けており、「医食同源」の考え方は残っているが、西洋と中国、どちらも程よくミックスされているのが香港なのだ。こうしたことが香港の長寿を支えているのではないだろうか。
 

  
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