2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月26日

 この批判は、ライス流でも、ことのほか厳しいです。党派的な感じさえします。しかし、白黒二分法的な世界観やゼロ・サム・ゲーム思考、国際公共財などの軽視、道徳的権威の欠如など批判が的を射ている点もあります。実際の世界は白黒ではなくグレイなところであると述べている点は上手い表現であり、全くその通りだと思います。

 しかし、ライスの中国観には賛成できません。中国は競争者であるが敵対者ではなく、近隣諸国を不法占領している訳でもないと主張しています。しかし、南シナ海など中国の振る舞いを見ればそのような中国観は問題です。もっと厳しい見方が必要でしょう。そういえば補佐官時代の彼女の対中姿勢は宥和的なもので批判されもしました。なお、中国は、正しいことですが、「協力こそが米中の唯一の選択肢だ」と反論しています。

 今回の対議会報告について注目した点は、次の通りです。なお、日本政府は基本的に今回の報告を歓迎しているようです。

 (1)トランプの強い意気込みが感じられました。従来事務的に発表されたものですが、今回はトランプ自らが発表しました。ただ一部のメディアは選挙演説の様だと皮肉っています。

 (2)トランプの政策が全体として当初よりは改善、修正されてきていると感じられました。第1は、世界での米国のリーダーシップ、影響力を政策の目的として認めるようになって来ていることです。米国の影響力の推進が第4の柱になっています。大統領就任演説などでは世界における米国の役割を放棄した狭隘な「アメリカ第一主義」の考えでしたが、知らず知らずのうちに世界での役割をとにかく果たすように変わってきています。そのためには強い力が必要だとし、力を通じた平和維持の考え方を打ち出しています。マティスなど側近の教育でしょうが、重要な進展です。

 (3)第2に、中ロは米国に挑戦する「修正主義勢力」と規定していることです。従来の政権が採ってきた中国を国際社会に融合すれば中国は変化していくという政策は間違いだと考えています。中国の見方が厳しくなっているかもしれません。所謂ステークホルダー論が間違っているとは思いませんが、中国との関係はそれだけでは不充分です。ステークホルダー論と共に勢力均衡を忘れないで、これらを合わせ追求していくことが必要だと思います。

 (4)第3は「自由で開かれたインド太平洋」の概念を採用していることです。「地域の文脈における戦略」の章ではインド太平洋の記述が一番目にあり、最も多いスペースが割かれています。インド太平洋の概念は安倍総理がインドでの演説で最初に打ち出したものです。日本、インド、豪州との関係強化にも言及しています。北朝鮮問題重視の考えも心強いです。

 (5)日本を「不可欠な同盟国」と述べています。日米同盟関係が緊密に推移していることは良いことです。ただ一つ双方に違いがあるとすれば、貿易の頑なな二国間志向であり、この戦略でも貿易経済は4本柱の一つにされています。なおトランプのWTOへの敵対的姿勢は強く懸念されます。

  
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