オバマ政権の国家安全保障補佐官のスーザン・ライスが、12月20日付のニューヨーク・タイムズ紙で、トランプの国家安全保障戦略を激しく批判しています。主要点は次の通りです。
トランプの国家安全保障戦略(以下「戦略」)は歴代大統領の戦略と大きくかけ離れ、「極めて危険な」世界観を打ち出している。戦後米外交の基礎となった米国の政治、軍事、技術、経済上の力や自由の推進等への言及は殆どない。
トランプによれば、米国の勝利が常に他国の犠牲によってしか達成されない。公共財や国際社会、普遍的価値は存在しない。戦略はゼロ・サム・ゲーム思考の権化になっている。これはトランプの国家主義的な、白黒分別思考の米国第一主義戦略でしかない。実際の世界は白黒ではなくグレイなところであり、トランプはその微妙な分別がつけられないようだ。中ロを同じ敵国と見做している。中国は競争者ではあるが、敵対者ではなく、近隣諸国を不法に占拠している訳でもない。ウクライナを蹂躙したロシアこそ米国の敵国であり、トランプはそれを直視しようとしない。中ロ両国を束ねて、中国批判者達のご機嫌を取ろうとしている。それはロシアと中国の接近をもたらす間違った考え方だ。
移民については引き続き厳しい政策を取っている。また多国間より二国間の合意を優先させ、中国の拡張阻止に資するTPPからの離脱を自賛している。
戦略は人権や貧困、高等教育、HIV/AIDS等米国がこれまで重要と考えてきた多くの優先課題を省略している。これは米国の世界での指導力を削ぐものだ。
戦略は、外交が重要だというが、ティラーソンの国務省は資源、人材や存在感を喪失している。報道の自由を述べるが、フェイク・ニュース批判は続ける。そういうことでは戦略の内容をどれ程真面目に受け取るべきか分からなくなる。
米国の力は長年その軍事力、経済力だけでなく、米国が掲げてきた理想の力にも基づいていた。この難しい時代に米国の道徳的権威を放棄することは相手をより大胆にさせ、自らを弱体化させるだけだ。それでは米国第一主義の考え自体が茶番になるだろう。
出典:Susan E. Rice ‘When America No Longer Is a Global Force for Good’(New York Times, December 20, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/12/20/opinion/susan-rice-america-global-strategy.html?_r=0