日本が近代国家として初めて結んだ旧日英同盟が極東の新興国、日本をアジアの大国に押し上げ、日本の国際社会での地位を揺るぎないものにした歴史的意義は極めて大きい。
これに対して、21世紀の新日英同盟は戦争に備える軍事同盟ではない。海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、インテリジェンス、人道災害支援、平和維持活動、防衛装備品開発など、多様化する安全保障のあらゆる分野で包括的に協力し合う関係づくりを目指すものである。
それでは、日英が同盟を結び、安全保障面での協力を強化することは、世界の安定にとって、どのような意義があるのだろうか。
東西冷戦時代から今日に至るまで、アジア太平洋地域では、米国を中心に、日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアがそれぞれ別個に同盟を結んでいた。それは「ハブ・アンド・スポークの同盟」と呼ばれ、米国が常にハブであり、スポークがその相手国であった。これに対して、欧州のNATOのように複数の国が互いに同盟を結び、協力し合う関係を、「ネットワーク型の同盟」と呼ぶ。
ハブ・アンド・スポーク同盟の最大の問題は、協力し合う相手が常に一国しかないために、国同士の利害が一致しない場合、機能不全に陥ることである。また、二国間の力のバランスに大きな差があると、弱い側が常に強い側に寄り添う追従主義に陥りがちであり、スポークの国は戦略的に自律するのが難しい。そのため、2000年代以降、スポークの国同士の協力が急速に進展してきている。
具体的には、日本では安倍政権発足以来、政府の首脳陣がほとんど毎月のように東南アジア、南アジア、さらに欧州諸国に足を伸ばし、安全保障協力を拡大しようとしているし、自衛隊も、オーストラリア、インドなどと定期的に共同の演習を実施している。また、日米とオーストラリア、日米と韓国、日米とインドといった三国間での安全保障協力も進んでいる。米国との同盟関係を共有する国同士が個別に同盟関係を築き、米国との同盟を支えようとしているのである。
ただし、このようなネットワーク型の同盟には、NATOにとっての米英がそうであるように、コア(中軸)となる二国間関係が必要である。日英同盟はまさにそのコアになりうる。
日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っている。日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできた。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えるが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのである。