現代の世界は第一次世界大戦前と酷似しているという英国の歴史家は多い。大国が衰退を始め、それに乗じて別の国家が膨張し、混沌(こんとん)と不確実性が世界中に蔓延している。欧州では統合を率いてきた英国がEU(欧州連合)からの離脱を決めた。ロシアはウクライナ領のクリミアを事実上併合、第二次世界大戦後初めて中東に軍事介入し、バルト海では軍の活動を活発化させている。
一方、アジアでは中国が南シナ海の島々に軍を駐屯させ、空母の建造を推進、太平洋の西部にまで海軍を展開させ、海のシルクロード構想のもと海洋進出を着々と進めている。
そして、米国は世界の警察官としての座から退くことを表明、海外の紛争に関わることに消極的になっている。
こうした時代にあって、最も重要なことは同盟の相手を増やし、安全保障の傘を大きく広げることである。19世紀の英国の著名な政治家であり、2回にわたって首相を務めたヘンリー・ジョン・テンプルは1848年、英国下院での演説の中で、「英国には永遠の味方もいなければ、永遠の敵もいない。あるのは永遠の利益だけだ」と述べた。混沌とした時代の中で国家が生き抜くためには敵と味方を峻別(しゅんべつ)し、堅固な戦略的自律を維持することだ、とテンプルは説いたのである。
そして、その言葉は現代の日本に対して同盟関係の再編を宿題として提起している。
2017年8月30日、英国のテリーザ・メイ首相が日本を訪問した。アジア諸国の歴訪でもなく、メイ首相はただ日本の安倍晋三首相らと会談するためにだけ、日本にまで出向いて来たのである。その目的は、英国と日本の安全保障協力を新たな段階に押し上げることにあった。
英国は1968年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明した。以来、英国はグローバルパワー(世界国家)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきた。ところが、その英国は今、EUからの離脱を決め、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指している。そして、そのために欠かせないのが、アジアのパートナー、日本の存在である。日本と英国は第二次世界大戦前後の不幸な時期を除いて、日本の明治維新から現代に至るまで最も親しい関係を続けてきた。
「スエズ以東」に回帰し始めた英国
日本の安倍首相とメイ首相は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、その中で、「日英間の安全保障協力の包括的な強化を通じ、われわれのグローバルな安全保障上のパートナーシップを次の段階へと引き上げる……」と述べ、日英関係をパートナーの段階から同盟の関係に発展させることを宣言した。そして、「日本の国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の政策と英国の『グローバルな英国』というビジョンにより」と述べ、英国がグローバルパワーとして、日本との同盟関係を活用して、インド太平洋地域の安定に関与していく方針を明確にした。