2024年12月22日(日)

使えない上司・使えない部下

2018年2月8日

 今回は、ITベンチャー企業(社員数300人)が運営するウェブサイトに記者・編集者として勤務する男性(46歳)を取材した。男性は20代前半から後半までは、大手の求人広告の編集制作にコピーライターとして関わった。20代後半から30代後半までは、中堅の広告会社で求人広告の制作ディレクターとして携わる。

 これまでに取材をした会社は、大企業から中小・ベンチャー企業まで、2000社を超える。取材窓口の多くは広報だったが、担当者の中には「使えない社員」が少なからずいたという。その使えない広報担当者について話をうかがった。

 なお、本人の希望で、氏名は匿名とした。事例として取り上げた会社は、特定できうる可能性があり、筆者の判断で内容を一部加工した。

(Abscent84/iStock)

取材の原稿と広告の原稿の区別がついていない

 ベンチャー企業の広報担当者の多くは、取材をする側から見ると、めちゃくちゃ使えない。大企業の広報に比べると経験が浅く、未熟で、つまりは意識も考え方も子どもなのだろうね。そもそも、会社として広報とは何ぞや、を教えていない。惜しいよ。ポテンシャルの高い人もいるんだろうから。

 たとえば、新聞や出版社、広告会社などがそのベンチャーを取材し、掲載する前に事実関係の確認のために、メールやファクスで原稿を送る。すると、ベンチャーの広報担当者は得てして、原稿を大幅に改ざんする。こちらは、「事実関係の確認」を依頼したのに、事実をねじまげたり、事実そのものをカットしたりする。文意がまったく異なったものになり、意味が一読してわからない。

 それどころか、取材時の時にベンチャーの担当者が話していないことを新たに盛り込む。こちらに戻ってくる原稿はもはや、小説になっている。どこまでが事実で、どこからがフィクションであるのか、わからない。おい、おい、マジかよ…と思う(苦笑)。

 それで原稿の質が上がるならばともかく、ほとんどの場合は下がる。5段階評価で言えば、こちらが先方に送った原稿が「4」だとすると、「2」くらいになる。こちらとしてはそのまま、掲載することはとてもできない。掲載した後、読者との間に問題が起きたら、責任は掲載した側にあるから…。

 ベンチャーの広報担当者は、取材の原稿と広告の原稿の区別が正確にはついていないのだろうね。広告の原稿は、広告会社などに依頼し、お金を払い、フリーライターやコピーライターなどに原稿を書かせる。掲載前に原稿を確認するときに広報担当者がある程度、内容を変えたりするのは、ある意味で当然だろうね。ただし、この場合も事実を改ざんし、必要以上に誇張したり、嘘まで書くのはよくないと思うけど。広告審査基準って、あるんだから。

「改ざんされた原稿では、掲載はできませんよ」

 取材の原稿は通常、取材を受ける会社は新聞社や出版社にお金を払っていない。最終的に、その会社を取材した内容をどのような視点や切り口で記事にするかは、取材した側の判断におおむね委ねられる。掲載をしない場合もあるんだ。掲載するならば、もちろん、事実関係や認識が正しいことが必要だよ。その会社のひぼう・中傷などはよくないし、誤解を招くかもしれない表現も避けるべきだろうね。

 取材の原稿ではなおさら、取材を受けた側が原稿を改ざんしたりして、文意をねじまげてしまうのは問題なんだ。それでは、取材した側として、内容に責任を負えない。そもそも、広報担当が書き変えた内容が事実であるのかも、疑わしいことがある。このあたりのことを、ベンチャーの広報担当は正しくは理解していない。

 こちらが、「改ざんされた原稿では、掲載はできませんよ」と言うと、怒り始める広報担当もいる。中には、抗議に近いメールを送りつけてくる担当者もいる。こういうことは、私が取材した大企業ではごくまれなこと。ベンチャーと大企業の広報担当の対応には大きな差がある。

 ベンチャーって、経験の浅い人をきちんと丁寧に仕事を教える文化が隅々まで浸透していない場合が多々ある。だから、定着率も悪く、管理職のレベルも概して低い。年齢が若いからね。20代後半で、部長になるところもある。

 こういうベンチャーには、妙なベンチャー信仰がある。自分たちの会社は、自分たちで創る、というもの。未熟な人が多いから、めちゃくちゃ染まりやすい。広報担当もそれを真に受けて、「自分たちの会社はこうなのよ」と言わんばかりに原稿をめちゃくちゃに創作する。広報って、そんなに恰好よく、華やかな仕事じゃないんだと私は思う。

 大企業の広報担当は経験が浅くとも、全般的に原稿確認をきちんとできる。上司や先輩の助言や指導もあるんだろうけど…。もちろん、ひどい担当者もいるけど、全体からすると少ない。多くは原稿を戻してくるときには、事実関係に誤りのあるところのみをやんわりと指摘してくる。メールには必要最小限度に書いて、電話などでフォローする。修正をした箇所は「修正希望」「修正依頼」と書いて、こちらに不快な印象を与えないような言葉を使い、説明してくる。

 うまいよね。こちらの気分をよくしてくれる。もう一度、この会社を取材したい、と思うように仕向けてくるから…。これこそが、ブランディングだよね。ある意味で、したたかなのだと思う。こちらにお金を1円も払わずに、何十万人、何百万人に自社を知らせることができる。こんなにおいしい仕事の本質をよく心得ている。現在の上司や先輩の指導だけでなく、長い歴史で培ったノウハウなんだろうね。


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