定年バックパッカー海外放浪記

2018年4月8日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年生まれの62歳。横浜生まれ、神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

(2017.2.25~4.26 61日間 総費用13万2000円〈航空券含む〉)

日本人のアイデンティティーとは何か

 2月25日夕刻。上海浦東空港でニューデリー行きの中国東方航空便を待っていた。出発時刻まで数時間もあり退屈していた。やはり早々と搭乗ゲートに到着して同じ便を待っている欧米系の青年がいた。

デリー駅に停車中のバラナシ行きの列車

 彼は片言の日本語を話したので聞くと、父親が日本人で母親がカナダ人のハーフとのこと。精悍な風貌をしており俳優のキアヌ・リーブス似の爽やかなハンサム青年である。彼、アンドリューはバンクーバー在住の大学4年生。

 父親から幼いころから剣道を仕込まれて現在は剣道四段。四国の松山の剣道場で数カ月間修行してきたという。父親は1950年生まれ。大学まで剣道一筋で卒業後は米国・カナダを放浪。その後カナダに海外青年協力隊として派遣され、バンクーバーで剣道の道場を開いた。そのまま現地に残り剣道普及活動の傍ら事業を起こしたという自助努力の人であるようだ。現在でも剣道指導と会社経営を継続している。

 アンドリューは日本語がほとんど話せない。しかし彼が英語で真剣に語る内容を聞いていると、現代日本人よりも日本的価値観を大事にしているように思われた。彼のバックボーンは剣道であると明言した。実は子供の頃は、家の庭で兄と一緒に父親から剣道の指導を受けていると、近所の子供が囃し立てるので恥ずかしくて剣道が嫌いだったという。

ヒンズー教の聖地バラナシの路地で残飯をあさる牛

 剣道や仕事に厳しい父親は平素の日常生活でも子供の躾に厳しく、高校時代には父親の生き方に反発した。しかし今では自分が父親と同じ価値観を持っていることを強く意識するようになったという。

日本人若者バックパッカーの最大の関心事とは

 2月26日から1週間デリーに滞在。いわゆる日本人宿であり邦人の若者バックパッカーが毎日入れ替わり立ち代わりで滞在してゆく。さらにインドにおけるカオスの極めつけと言われるバラナシに1週間滞在。この間に多数の邦人の若者に出会った。2月下旬は大学生の春休みであり、特に大学4年生の卒業旅行が多い。

バラナシの路地脇のゴミ捨て場

 宿での日本の若者たちの話題は、インド放浪での冒険談とオーストラリア・カナダでのワーキングホリデーが定番のようだ。ワーキングホリデー(若者の間では略してワーホリと呼ばれている)とは若者が当該国で一定期間働いてお金を稼ぎながら旅行をエンジョイできる制度である。日本人の場合は日本政府が多くの先進国と相互協定を締結しているので選択肢が多い。ワーホリ・ビザの期限は通常1年、延長申請して2年のようだ。

 日本の若者には以前から英国が人気であったが、英国の受け入れ枠が比較的少ないので、現在ではオーストラリアが圧倒的に人気があるようだ。最低時給が16豪ドル(=1400円)と高く、需要の多い農場での収穫作業では一日あたり2万5000円にもなる。

 ワーホリでは基本的に単純労働が大半でありファーム(農場)での収穫作業、シティージョブ(町での仕事)では店員、ウェートレス、皿洗い等である。すなわち旅行費用を稼ぐには絶好の制度であるが、将来の人生設計(キャリア形成)にプラスになるような経験を積める仕事は殆どないように思われる。

 しかし大学生を含む若者バックパッカーには、ワーホリは手軽に稼げて海外気分を満喫できる非常にオイシイ制度のようである。彼らの話を聞きながら、単に目の前の“高報酬”に釣られて未来のキャリア形成を犠牲にしているように思えた。

冒険旅行におけるリスクとは

 邦人バックパッカーたちからインド旅における冒険談も数限りなく聞いた。なかでも南インドを廻ってきたという男子学生の体験談は忘れられない。彼は南インドの町で地元の青年と意気投合として食事に行った。地元の青年が買ってきたジュースを飲んで話をしているうちに意識を失った。気が付くと野原で寝ていた。現金・クレジットカード・パスポート全て無くなっていた。典型的な睡眠薬強盗のケースである。

ホテルの汚れたリネン類を運ぶ洗濯屋のボーイ

 実は今回の旅の最後に滞在したコルカタの宿でもOLをしている23歳の邦人女子からも全く同様の話を聞いた。彼女はコルカタで地元の親切なオジサンに町を案内してもらいランチをご馳走になったが、気が付いたら知らない公園のベンチで寝ていた。貴重品は全て盗られていたという。

 この2人のケースで共通しているのは見ず知らずの初対面の地元の人間と知り合って短時間で相手を信用して、“対等の人間関係”を前提に交流していることである。途上国の普通の人々から見れば当然のことながら“日本人はお金持ち”である。

 私は長年の経験から圧倒的な経済格差が存在するなかで“対等の人間関係”が成立することは基本的に『あり得ない』と考えている。昼間から仕事もせずにブラブラしているような地元の人間(正業に従事しているとは思えないような)と十分な意思疎通もできぬままに一緒に行動するという感覚が信じられないのである。

 私の経験では途上国で見ず知らずの素性の知れない地元の人間から声を掛けられたら間違いなく“お金が目当て”である。従って絶対に相手をしないことを鉄則としている。

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