オイルマネーの神通力が色あせ始めた中東の大国、サウジアラビア。世界最大の産油国の座を米国に奪われ、低迷する原油価格はサウジアラビアを直撃、2018年の財政赤字は5兆5000億円を超えると見込まれている。同国の若き指導者、皇太子ムハンマド・ビン・サルマンが打ち出した、脱石油依存、産業構造の多角化などを謳った「ビジョン2030」の履行はサウジアラビアの国としての生存をかけた抜き差しならぬ計画なのである。
「石油が無くなればベドウィンの生活に戻るのではないかという恐怖が常にある」
かつて石油鉱物資源大臣として、同政府の〝顔〟でもあったアリ・ヌアイミは来日する度に、こう話しては日本からの企業進出を切望していた。ベドウィン、サウジの先祖たちがそうだったように駱駝(らくだ)を従えての遊牧生活のことであるが、オイルマネーによって成りたっている、いわば〝人工国家〟サウジアラビアにとって、ベドウィンは苦難と貧困を象徴する忌まわしい過去なのだ。
オイルマネーに取って代わる産業を必死に探し求めているサウジ政府がある日本のベンチャー企業に熱い視線を送っていることを知っているだろうか? サウジ政府が合弁事業を望んでいる日本企業の名は「ドレミング」。15年に福岡市に設立されたフィンテック企業である。その将来性は海外でいち早く評価を受けていた企業である。
世界の4大会計事務所(ビッグ4)の一つKPMGと「H2ベンチャーズ」(豪州のフィンテック専門投資会社)とが共同で行っているのが、最も権威あるフィンテック企業ランキング「フィンテック100」だ。フィンテックを牽引している企業50社(Leading50)、将来有望視される50社(Emerging50)をそれぞれ選び出す。16年、「Emerging50」に日本で唯一選出されたのが設立間もないドレミングなのである。
「世界のおよそ20億人とも言われる貧困に喘ぐ〝金融難民〟を救いたい」
こうした大義を抱えドレミングは設立された。このベンチャー企業に先のサウジアラビアのみならず、インド、英国、ベトナムなど世界中から問い合わせが殺到している。同社の何がそれほどまでに海外からの関心を引きつけるのだろうか?
ドレミングが提供するサービスを簡単に言ってしまえば、労働者の給与の前払い。決められた支払日の前に、働いたその日の賃金をその日にスマートフォンに払い込むシステムである。働いた賃金の残高は、ドレミングが雇用先に提供する勤怠管理システムによって記録され、労働者はその残高の限度まで店舗のQRコードにスマホをかざせば、買い物ができる。もちろん、キャッシュレスである。