世界の記述

2018年7月11日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 アイルランドで5月26日、人工妊娠中絶(以下、中絶)の是非を問う国民投票が行われ、賛成が66・4%、反対が33・6%で、賛成派が勝利した。リオ・バラッカー首相は「アイルランドにとって歴史的な日。静かな革命が起きた」と演説、「中絶が恥辱ではなくなった」と明言した。

人工妊娠中絶の是非を問う国民投票は、賛成派が勝利し歴史を変えた
(CHARLES MCQUILLAN/GETTYIMAGES)

 カトリック教徒が全体の78%を占める人口470万人の同国で、中絶を求めて国外に出向く女性は、年間に約3500人。その理由は、1983年の中絶禁止法で「出生前の胎児の生命と妊婦の生命は同等の権利」とされてきたためだ。年内にも、その83年法を改正して妊娠12週未満の中絶を容認し、妊婦の状況次第では、24週未満までを中絶の対象とする。

 ダブリン城で開票結果を知った女性は、英放送局チャンネル4に喜びを伝えた。

 「83年の運動にも参加していた。道のりは長かったが、ようやく勝利を獲得した」

 一方で、中絶に反対するアイルランドの団体は「歴史に残る深刻な悲劇」と落胆。聖職者らは「賛成票を投じた人々は、教会で結婚すべきではない」との見解を示した。

 世界保健機関(WHO)によると、世界で年間2200万人の女性が中絶を行い、4万7000人が死亡しているという。ヨーロッパでは、国民の98%がカトリック教徒といわれるマルタのほか、バチカン市国、アンドラ公国、サンマリノ共和国が中絶を全面的に禁じている。

 中南米では、さらに厳しく、女性が生命の危機に陥る状況でも、中絶を認めない国がある。中米のエルサルバドルでは、法に反し、禁錮30年の判決を受けた女性の例がある。

 南米チリも、全面的に中絶を否定してきたが、生命の危機がある場合と性的暴行の被害に遭った女性に対しては、2017年から例外的に中絶を認めるようになった。

 今回のアイルランドの国民投票は、英国に属する北アイルランドにも波及している。国際人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」の英国支部によると、北アイルランドは、英国の中でも唯一、中絶を認めず、16年に700人の女性がイングランドで中絶したと報告した。

 人工的に妊娠を終結させる行為が世界の主流となる中、08年から17年までの9年間で、中絶法の改定を行った国は28カ国に及ぶ。的確な知識や理念に従えば、その行為は正しいと言えるのか。賛成勝利に歓喜の声を上げたアイルランドの若者たちが将来、その答えを示すことになるだろう。

  
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◆Wedge2018年7月号より

 

 

 

 

 

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