前向きに読み解く経済の裏側

2018年6月25日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

(John Holcroft/GettyImages)

 各種報道によれば、昨年度の税収が58兆円を上回った模様です。リーマンショック当時の5割り増しであり、アベノミクス直前と比べても3割以上も増えています。これは、素晴らしいことです。

 図を見ると、最近のみならず、過去20年以上にわたって、名目GDPが少し増減しただけで、税収が大きく増減していることが読み取れます。税収は右メモリですから、ちょうど名目GDPの1割程度であることがわかります。通常であれば、景気を示すのは実質GDPですが、物価が大きく変動しているわけではないので、ここでは税収と比較する意味で名目GDPを使っています。

 余談ですが、メモリがゼロからはじまっていないグラフは増減が大きく見えますので、「左軸はゼロから始まり、右軸だけ途中から始まっているグラフ」を使って読み手を騙そうとする筆者もいますので、要注意です。もちろん筆者は、そんなことはしませんが(笑)。

 税収の主なものは、所得税、消費税、法人税です。所得税は、景気が拡大して人々の所得が増えれば、所得が増えた以上に税収が増えます。所得税の額は所得額に税率を掛けて求めるのですが、所得が増えると適用される税率が高くなっていくからです。こうした税率の決め方を「累進課税」と呼びます。

 景気が拡大を続けて株価が上昇すれば、株式の譲渡益からの税収も増加することが期待されます。企業の利益が増えて配当が増えれば、配当にかかる税金も増えるでしょう。

 法人税にも大きな期待がかかります。法人税は利益に課税されるものですが、利益の増減は売り上げの増減より遥かに大幅だからです(理由は補論参照)。企業の売り上げが3割増えることは非常に珍しいですが、利益が3割増えることはそれほど珍しくないのです。

 消費税は名目GDPの中の個人消費と同じ動きをするだけですが、それでも景気と関係が深いと言えそうです。というのは、2014年に消費税率が引き上げられたことで税収が大幅に増えたわけですが、それは「消費税率を引き上げても腰折れしないほど景気が強くなっていた」ことが原因だと言えるからです。

 いまひとつ、景気が拡大すると物価に上昇圧力がかかります。これが税収に及ぼす影響も大きなものが期待できます。物価が上がれば企業の利益が増えるでしょう。売り上げと仕入れが増加する一方で、減価償却は過去の安かった設備投資の額を反映したまま増えないからです。インフレによって賃金に上昇圧力がかかれば、サラリーマンの所得税も累進課税で増えていくはずです。

 このように、「景気は税収という金の卵を産む鶏」ですから、財政再建を焦って無理な緊縮財政で景気を殺してしまわないことが重要です。

 景気拡大が歳出を減らす効果も、忘れてはなりません。景気が回復すれば、景気対策としての公共投資等が不要になります。生活保護や失業手当の申請も減るでしょう。こちらは、財政収支への影響にとどまらず、国民の自尊心や生き甲斐といった精神面でのメリットも大きそうです。

 景気は、拡大を始めるとそのまま拡大していく力が働きます。売れる→作る→雇う→給料増→消費増、生産増→生産力増強設備投資→設備機械販売増、等々の好循環が働くからです。したがって、景気拡大時には無理な増税などをせずに事態の推移を静かに見守っていれば良いのです。しばらくすると、インフレの懸念が出てきますから、そうなった時に「金融引き締めではなく、増税で景気の過熱を抑え、インフレを予防」すれば良いのです。

 日本政府は巨額の借金を抱えていますから、インフレ防止のために金利を引き上げるのは避けたい所でしょう。そこで、増税でインフレを予防するのです。通常は、増税は時間がかかるので、機動的なインフレ対策ができないと言われていますが、昨今の日本経済を見ていると、景気の拡大が緩やかで、それがインフレ率を押し上げるまでには相当長い時間がかかりそうなので、増税で対応することは十分可能なように思われます。

 安倍政権は、もともと財政再建にあまり熱心ではなさそうですし、「骨太の方針」も性急な緊縮財政を良しとしない姿勢でしたので、まずは一安心という所ですが、今後の推移を注目したい所です。

(補論)景気回復で企業収益が大きく増えるメカニズム

 企業の利益は、売り上げから費用を引いたものですが、費用には2通りあります。売り上げと関係なく必要な費用(正社員の給料など)と、売り上げが増えると費用も増えるもの(材料費など)です。前者を固定費、後者を変動費と呼びます。

 景気が悪い時は、正社員が暇にしていますが、景気が回復してくると、正社員が忙しく働くようになります。その間、売上高は増えますが人件費は増えず、材料費が増えるだけなので、利益は大幅に増えるのです。不景気だった前年の利益は小さかったでしょうから、増益率は驚くほど高くなる場合もあります。

 人々が景気の回復を実感していない時に大幅な増益になると、株価が大きく上がるかもしれません。人より早く景気の回復を予想できると、株式投資にも役立つかもしれませんね。

  
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