前向きに読み解く経済の裏側

2018年5月28日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 企業が合併すると、全部の企業の名前を並べた非常に長い名前の新企業が出来ることもありますが、あれは勘弁ですね。当事者間の力関係や内部事情を反映したものなのでしょうが、それは当事者の都合であって、部外者にとっては単なる迷惑です。特に銀行の場合は振込先口座の銀行名を記入させられる場合が少なくないので(笑)。

(James Woodson/iStock)

 新日鉄住金が日本製鉄に社名を変更するそうです。4月には三菱東京UFJ銀行が三菱UFJ銀行に改名しました。部外者としては、名前が短くなるのは歓迎です。そこで今回は、合併会社の名前について考えて見ましょう。

 日本企業は、若干変質したとは言え、「会社は家族」ですから、合併しても社員には合併前の所属会社の色が付いており、派閥争いなども当然のように起こるのでしょう。そこで、吸収合併だとか対等合併だとか、様々なことが言われるわけです。

 会社の名前についても同様ですね。「吸収合併する方の名前が先に来るのが当然だ」「吸収合併される方の社員の自尊心を保つために、あるいは吸収合併ではないという建前を表明するために、吸収される側の名前を先に出そう」といった配慮が働き得るようですが、いずれにしてもどういう配慮が働いたのかを詮索されることになるわけです。

 派閥争いは、合併していない会社の中でも発生するわけですから、ある程度仕方ないと思いますが、企業名についても拘りを持つ人が多いですね。まあ、各自が自分の苗字や名前にこだわりを持つのと同じだと言われてしまえば、理屈では割り切れないものなのでしょうが。

 合併企業の名前に関して筆者がとても印象に残っていることがあります。Bank of Americaという米国の巨大銀行に合併の経緯について話しを聞きに行った時のことです。

 ちなみに、Bank of Americaというのは遥か昔から世界の金融業界の雄として君臨していた巨大銀行なのですが、実は一度経営が傾き、吸収合併されているのです。吸収したのは、NationsBankという銀行でした。言葉は悪いですが「合併に合併を重ねて急激に規模を拡大した田舎の成金が、没落した名門貴族を飲み込んだ」といったイメージだったわけです。

 つまり、吸収合併した銀行が、自分の名前をあっさり捨てて、吸収合併された方の銀行の名前を使うことにしたのです。日本では、チョット考えにくいですね。そこで、インタビューの際に名前について聞いてみたのですが、その時の回答が以下でした。

 「NationsBankの株主にとって、Bank of Americaという名前は喉から手が出るほど欲しいものだった。したがって、Bank of Americaという名前を使うことにしたのは当然のことだった」というのです。言外のニュアンスとしては、「Bank of Americaという名前が欲しかったから、リスクを冒してまで経営危機に陥っていた銀行を吸収合併したのだ」といったことだと筆者は感じました。

 米国企業の場合は、日本企業と異なり、「会社は家族」ではなく株主主権ですから、そのあたりが影響しているのかもしれません。NationsBankの社員が社名にこだわりを持つ一方で、NationsBankの株主は社名にはこだわりを持たず、「名門Bank of Americaの名前を使った方が稼げるなら、そうしよう」と考えたのでしょう。

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