世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年8月1日

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 地中海で629人の難民を救助したNGOの救助船がイタリアとマルタに入港を拒否され、漂流するという事件があった。イタリアの動きは、新政権でマッテオ・サルヴィーニが内相に就任して初めての反移民の動きである。しかし、EUが大きな難民問題の危機に目下直面しているわけではない。むしろ、難民の流入は 2015年10月のピーク時に比して96%減少している。

(Paket/HS3RUS/Andrii Yalanskyi/phototechno/iStock)

 しかし、難民を巡る政治は全く別の問題というわけである。きっかけは他の加盟国で難民申請を済ませた難民のドイツへの流入阻止を巡る、ドイツのメルケル首相とゼーホーファー内相の対立にある。メルケルは、国境閉鎖というゼーホーファーの一方的措置は各国による国境閉鎖の連鎖に繋がるとして反対した。この対立がメルケル政権の崩壊につながる危険すら指摘される状況で、いわばメルケルを窮地から救助すべき政治的要請があった。

 他方、イタリアの新政権は難民の排除を公約とし、難民問題の過大な負担を一国で担うことを強硬に拒否する。

 更には、難民数の加盟国への強制的割当てという形のEU全体としての解決を頑なに拒否するハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアの 4ヶ国がある。 

 これでは物事はまとまらない。まとまり得るのは、域外国境の強化策である。これが、6月28-29日のEU首脳会議で合意された第1の提案である。即ち、難民の密輸業者のビジネス・モデルを打破するためだとして、海上で救助された難民を収容し処理を担う施設を域外、恐らくは北アフリカに設けることを探求しようというものである。つまり、難民の欧州行きの夢を断つことで抑止効果を期待したものである。しかし、この施設がどのように機能するのかに言及はない。そもそも、協力する国を見出し得るかは不明である。 

 イタリアが獲得したのが、EU首脳が合意した第2の提案である。即ち、EU域内の各所に管理センターを設けて、真の難民と経済移民を仕分ける作業の迅速化を図るとされている。これによって、イタリアは難民問題の前線に位置するが、最早単独で負担を担うことはないと主張出来る。しかしこのセンターの受け入れ及び保護の必要性を認められた難民の移転と再定住は、加盟国の自発的な協力によるとされており、何処まで実効性のある提案となり得るかは疑問である。これによって、中欧諸国が拒絶してきた義務的受入れ難民数の割当てという形での解決策は葬られたということであろう。 

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