前向きに読み解く経済の裏側

2018年8月27日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 最低賃金が26円引き上げられることになりました 。「これは企業にとって困ることで労働者にとって嬉しいことだ」と言えそうです。

 今は景気が良く、労働力不足です。最低賃金が上がっても、失業者が増えることにはならないでしょう。それなら最低賃金の引き上げは労働者にとって嬉しいことですね。特に、「情報弱者」の労働者にとって朗報です。

(Bluehousestudio/Gettyimages)

 世の中には情報があふれていますが、それでも情報に疎い人(情報弱者)は必ずいます。

 「自分が世間相場よりずっと安い時給で働いていることに気づいていない人」

 「自分の時給が友人より安いことには気づいているが、時給の高い仕事を見つけることができない人」

 といった人がいるのです。最低賃金が上がれば、そうした人々も今までより高い時給で働けるようになるでしょう。

 情報弱者ではない労働者にとっても、最低賃金が上がれば恩恵を受ける可能性は高いと言えそうです。「経済学的に正しい賃金相場と比べて今の世間相場が低すぎる」という場合も多いからです。

労働力不足というのは賃金が安すぎる証拠

 賃金は労働力の価格です。「価格は需要と供給が一致する所で決まる」というのが経済学の大原則ですから、通常のケースでは労働力の需要と供給が一致しているはずです。需要と供給が決まる時の価格を「均衡価格」と呼びます。経済学的に正しい価格(本稿の場合は賃金)、と考えて良いでしょう。

 もっとも、世の中は経済学が考えているほどスムーズには動きません。人々が「均衡価格」を知っていれば問題ないのですが、実際には人々は均衡価格を知らないからです。

 失業が多いということは、労働力の供給が需要より多いということですから、労働者たちが「均衡価格より高い賃金が欲しい」と言って仕事を探し続けている状況です。これを解消するのは容易ではありません。政府が失業者に向かって「均衡価格はもっと低いから、もっと安い賃金の仕事を探しなさい」とアドバイスをすることは可能でしょうが、諦めきれない失業者も多いでしょうから。

 反対に、労働力不足だということは、均衡価格より低い賃金で労働者を雇おうとしている企業が多数あるということです。おそらく世間相場が「均衡価格」より低いのでしょうから、これは解決が簡単です。最低賃金を上げれば良いのです。さすがに最低賃金が上がれば、均衡賃金より安く雇おうという企業は諦めるでしょうから。

 もちろん、最低賃金の引き上げ幅が大きすぎれば失業者が増えてしまいますが、そうでない限りは、最低賃金の引き上げは労働力不足を緩和するのです。これは、均衡価格より低い賃金で労働者を雇おうと無駄な努力を続けていた企業に気付きを与える役割もしていることになります。

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