2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2018年8月15日

勝ち目が少ないことを指摘していた報告書

 マクロ分析された『英米合作経済抗戦力調査』(1)では、

  • 英米が合作すれば、米国の供給で英国の供給不足を補うことができる。
  • 英米の合作は、第三国に対して70億ドル余りの軍需資材の供給能力になる。
  • ただし、最大の供給能力の発揮には開戦後1年~1年半の時間が必要。
  • 英国船舶の月平均50万トン以上の撃沈は、米国の対英援助を無効にする。

 ミクロ分析された『英米』(2)では、

  • 英国の弱点として、島国であるために食料や資源を遠隔地から船舶で輸送しなければならない。

『独逸経済抗戦力調査』では、

  • ドイツの経済抗戦力は1941年がピークで、その後低下する。
  • 英米長期戦に頼るにはソ連の生産能力を利用しなければならない。
  • 食料不足が表面化しており、ウクライナからの供給が必要。
  • 石油も不足しており、ルーマニアからの供給だけでは足りず、ソ連のバクー油田からの供給が必要。

 しかし、ドイツがソ連の各種能力を利用するには、ソ連との決戦を短期で終了させる必要があり、長期化した場合は、「対英米長期戦遂行は全く不可能」となると、悲観的に述べられている。

 これに加えて、日本が行動すべき指針も示している。

  • 「東亜」は欧州に不足しているタングステン、錫、ゴムなどを供給することができるため、日本はシンガポールを占領し、インド洋連絡を行う必要がある。
  • 独ソ開戦以降、ソ連と英米の提携が強化されるため、日本は包囲網突破の道を南に求めるべし。
  • 北における消耗戦を避け、南において生産戦争、資源戦争を遂行すべし。

 報告書全体としての結論をまとめると、「長期戦になればアメリカの経済動員力により日本もドイツも勝利の機会はない」、ただし「独ソ戦が短期で終われば、イギリスには勝てるかもしれない」というものだ。そして、日本がなすべきこととしては、「北進(対ソ戦)」ではなく、資源獲得のチャンスがある「南進(対英米)」すべきとされた。

 こうした情報は当時、機密でもなんでもなかったのである。むしろ「常識」とも言えるものだった。それにもかからず「なぜ、開戦を決断したのか?」。そのとき、思い至ったのが行動経済学における「プロスペクト理論」だった。


新着記事

»もっと見る