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2018年8月23日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所特別研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

「調停者」ロシア?

8月21日モスクワで行われた「国際軍事技術展示会 アーミー2018」で挨拶を行ったプーチン大統領(REUTERS/AFLO)

 スタジオ・ジブリのアニメ映画『風の谷のナウシカ』は世界のアニメ史上に残る傑作として知られる。核戦争によって文明が滅びてから1000年後の世界を描いたこの作品には「巨神兵」と呼ばれる旧文明の巨大人型兵器が登場し、凄まじい破壊力を発揮するものの、最終的には怒れる王蟲の群れに蹂躙されてしまう。

 しかし、このアニメの原作となったコミック版『風の谷のナウシカ』では、「巨神兵」の描かれ方がかなり異なる。「オーマ」の名を持つ「巨神兵」は、実は「調停者」であり、その巨大な破壊力によって大国間の戦争を抑止する役割を旧文明世界に負っていたことが明らかになっていくのである。

 ここで「調停者」について触れたのは、中東におけるロシアの役割とその限界を考える上で有用であるように思われたためだ。本稿の前編『イスラエルとイランの間で板挟みになるロシア』で触れたように、シリアを舞台としたイランとイスラエルの対立が激化するなかで、ロシアは「調停者」と振る舞おうとしている。しかし、ロシアには本当の意味でその力が備わっているのかどうか。後編にあたる本稿では、この点について考えてみたい。

埋まらない溝

 前回述べたように、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものであった。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せている。

 たとえば、イスラエルが5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがある(ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難した)。

 また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられている。イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られる。このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えた。

 しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難い。結局、イラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、(ロシアのけん制にもかかわらず)イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されている。

 7月16日にフィンランドのヘルシンキで開催された米露首脳会談でもシリア問題は大きく取り上げられたようだ。ボルトン米安保補佐官によると、この際、イランをシリアから撤退させるべきであるとの見解で両国首脳は一致したものの、現実的には難しいという結論に達したという。さらに同月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられている。

 イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れよう。

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