栄養学から考える「食と健康」

2018年9月10日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

佐々木敏先生(撮影:監物南美)

佐々木:そんな記事を読んだときには、コメントしている科学者は本当に独立しているのかな、ということも気にしておく必要があります。「これだけお金を渡すので、こういう発言をしてもらえませんか」というオファーがあっての発言のケースもあります。

松永:その食品の関係企業や団体が研究費を出して科学者が調査や研究をしている場合もあります。いわゆる利益相反です。恐ろしいのは、研究をしているうちに科学者にも思い入れが出てきてしまって「この食品は問題ない。良いものだ」と信じ込んでしまうケースがあることです。そうした思い込み、バイアスがあるのに行われた研究には不備が多く、エビデンスとは言えない。でも、マスメディアの人たちはエビデンスの質までは吟味できなくて、「科学者が言っているから」と報道してしまいます。「味噌の塩分であれば悪くない」というような主張は、そうした背景があるのかなあ、と個人的には思っています。

「味噌の塩分ならいい」は否定できる

佐々木:「味噌に含まれる塩分は問題ない」は、科学的には高い確率で否定できますよ。これは、疫学の分野ではパラシュート問題と言われています。British Medical Journal(https://www.bmj.com/content/327/7429/1459)という著名な学術誌で紹介されました。

 もしも飛行機からパラシュートを背負って降りた時、パラシュートが開かなかったら人は死ぬか。100人の人に落ちてもらって、50のパラシュートは開かないようにして、両方の群でそれぞれ何人の人が死ぬか調べる。そんな無作為比較割付試験をしよう、とはだれも言わないでしょう。そんな試験をしなくても、パラシュートが開かない時に人が地面に落ちるまでの距離と時間、落ちた瞬間のスピードは計算できます。それによって、人が死ぬ確率も計算できます。実験をしたら人の命が奪われる。実験をやらなくても理論計算だけで、高い確率で推定できる。その場合には、実証実験は避けるべきだ、という前提があります。お味噌はそれだ、とぼくは思います。

 味噌に含まれる塩分も他の食べ物に含まれる塩分もその正体のほとんどは「塩化ナトリウム」でまったく同じ物質です。味噌には健康に良い別の成分があるかもしれません。したがって、「味噌は血圧を上げない」という可能性は残されていますが、「味噌の塩分は血圧を上げない」という可能性はありえません。実験はやらずとも理論的に否定できます。

松永:実験で確認していない、しかし、理論的には明確に推論できる。だから、「高い確率で否定できる」という言い方をされたのですね。減塩の重要性はよくわかりました。もう少し、整理させてください。そうなると次に「血圧を上げる食塩 vs 血圧を下げる機能性成分、味噌ではどちらが強い?”」を考える、ということになります。

佐々木:血圧を下げるかもしれない成分の研究は、わずかにあります。しかし、食塩が血圧を上げてしまう問題を支える膨大な根拠と比較し、量と質を足し引きすれば、全体としては味噌は血圧を上げる方向に働くらしい、と考えるほうが安全そうです。

個人の栄養状況を把握するためのBDHQ

松永:それでは、食塩以外の栄養素についてはどうでしょうか。先生は、個々人の食生活を把握できる調査法BDHQ(簡易型自記式食事歴法質問票:brief-type self-administered diet history questionnaire)を開発されています。2016年度以降、一部の生活協同組合が組合員の学習活動に取り入れており、今年4月には、多くの生協組合員が利用できるシステムが日本生活協同組合連合会によりインターネット上に開設されました。

佐々木:栄養摂取の状況は個々人によって大きく違うので、すべての人に当てはまる「この栄養素は摂るべき」「あれは控えるべき」というような言い方はできません。減塩は、日本人ほぼ全般に共通して言える数少ない栄養素の一つです。

 では、どうやって個人が自分の食生活の現状を知ったらよいのか? よく、食事を記録してもらって把握しようとしますが、人の食生活は日によって大きく異なることがわかっており、1、2日の食事記録では足りません。

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