栄養学から考える「食と健康」

2018年9月10日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

*第1回、第2回はこちら

日本の和食研究は自画自賛?

松永:前回、欧米での研究結果、エビデンスをすぐに当てはめてこうしろ、ああしろ、というのではなく、日本人の食生活の把握からだ、というお話をお聞きしました。近年、和食は健康によいとか、日本の伝統的な食文化はすばらしい、などと言われています。ユネスコの「世界無形遺産」にも認められて、昔に返ったら健康になれると言わんばかりの食育が行われている現状もあるのですが。

図1 ユネスコの公式ウェブサイトの世界無形遺産リストの紹介ページ
健康に関する言葉はない。ユネスコの決定文書の中では次のように表現されている。
Inscription of Washoku could raise awareness of the significance of the intangible cultural heritage in general, while encouraging dialogue and respect for human creativity and for the environment, and promoting healthy eating;
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佐々木:そもそも、和食の定義ってなんでしょう? しっかりとした定義が決まらないまま、いろいろなことが語られています。それに、ユネスコの世界無形遺産は文化としての認定ですよね。ユネスコの公式文書では健康についてどのように説明されていますか?

松永:ユネスコの公式ウェブサイト(英語)で今、調べました。世界無形遺産リストの中の和食紹介のページ https://ich.unesco.org/en/RL/washoku-traditional-dietary-cultures-of-the-japanese-notably-for-the-celebration-of-new-year-00869 に、健康を意味する説明は一言もありません。米や魚、野菜などナチュラルでローカルな材料が使われていることなどには触れられています。ダウンロードできる決定文書では、promoting healthy eating とのみ書かれています。一方で、農水省の公式ウェブサイトの中にある「和食が世界無形遺産に登録されました!」http://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/ というページを見ると、和食の特徴として、「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」の次に「健康的な食生活を支える栄養バランス」を挙げています。ユネスコのページ、文書にはない意味合いが付け足されている。なんだ、私たちは農水省にだまされていたのか。

佐々木:和食、日本食を栄養学的に語るには、その定義、特徴はなに、というところから調べる必要があります。2017年1月にPubmed(アメリカ国立医学研究所の国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学分野の学術文献検索サービス)を調べたところ、地中海食を扱った研究論文数は2016年までで3400編あまりあります。一方、日本食(和食)を扱った研究論文数はわずか153編しかありません。どうもわが国の和食・健康研究は、自画自賛的な危うさを感じます。

松永:先生の研究室で、日本の学校給食に関する論文を発表されたとか。

佐々木:ぼくの研究室にいた朝倉敬子さんが、2017年に日本の学校給食の研究結果を論文発表しています。12県の小学生600人あまりの食事調査を実施して、学校給食のある日とない日を比べました。その結果、60%以上の栄養素摂取量に統計学的に有意な差があり、どの栄養素でも給食のない日で摂取が不適切な人の割合が高い、という結果になりました。

図2 日本人の食事摂取基準(2015年版)を守れていなかった子どもたちの割合
平日(給食がある日)と休日(給食がない日)を比較すると、休日に守れていない割合が急上昇するのはカルシウムや鉄、食物繊維など。食塩は、平日、休日両方で9割近くが守れていない、つまり摂り過ぎだった
出典:論文9より作図

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