2024年4月16日(火)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年9月20日

 さらに中国は、日本を劣勢に立たせる形で、米国の対中政策に有利に作用させようとするPDも展開してきた。例えば、中国や韓国が国際社会において対日批判を激しく行う状況が多発し、その韓国の活動に中国が協力する形でPDを展開している。その影響は、徐々に米国国内でも現れるようになった。現地メディアが日本の慰安婦問題や靖国神社参拝問題に関し、日本を批判的に取り上げるようになっていたのだ。

 中国にとって都合が良いのは、日米関係が悪化することだ。しかし、中国が単独で、米国の対日感情を悪化させたわけではない。米国内でも中国のプレゼンスが増大しており、米国自身が日米同盟を維持しながら中国とも良好な関係を構築しようとしたこともその一因である。

 そうしたなか、同盟国の日本が歴史認識をめぐる問題や領土問題などで中国と対立することに対して、米国内で不快感が広がっていった。さらに、歴史認識をめぐる日本政府の強硬な姿勢が、中国の反日的なPDを後押しする形となり、米国が「失望」という声明を出すこととなってしまった。こうした状況を背景として、米国世論のなかでも、日本より中国をアジア最大のパートナーと見なす考え方が増えていったのだと考えられよう。

 このように、中国の米国におけるPD戦略は、日本にとって不利に作用していた。安倍政権による2015年度のPD強化戦略も、こうした事態に対する強い危機感があったからだと考えられる。

「米中貿易戦争」は中国PDを敗北に導くか?

 しかし、日米関係を悪化させるかに見えた中国の対米PDが、行き詰っているように見受けられる。しかも、文化、経済、政治と、多岐にわたる分野で上手くいっていないようなのだ。

 具体的に見ていこう。文化面でいえば、先に紹介した、米国各州の教育機関における孔子学院の相次ぐ閉鎖だ。米議会では、共和党のルビオ上院議員をはじめ複数の議員が、孔子学院の閉鎖を働きかける活動を展開しており、これまで、シカゴ大学やペンシルバニア大学をはじめ、最近では2017年9月にイリノイ大学の、2018年4月にテキサス農工大学の孔子学院が次々に閉鎖を決定している。

 さらに2018年2月には、米連邦捜査局(FBI)が孔子学院に対して、スパイ活動容疑やプロパガンダ活動容疑で捜査を開始した。

 また、経済面では、トランプ政権誕生後、米中の貿易摩擦が「貿易戦争」と呼ばれるまでに緊迫しており、中国の通信機器大手であるHuaweiなどの通信機器の販売を制限・禁止する動きを見せている。そのHuaweiは、2018年に入ってから、米国におけるロビー活動費を大幅に削減し始めた。米国議会に対するロビー活動を縮小させたのだ。

 同社は民間企業でありながら、中国人民解放軍の退役軍人が創業した「人民解放軍のスピンオフ企業」ともいわれており、米国では中国人民解放軍や情報機関との関係が疑われていた企業である。

 一見すると、米中の貿易摩擦の一環とも受け取られるこの問題は、実はPDの問題でもある。政府が関係するロビー活動がPDの手法の一つといわれることに鑑みても、Huaweiは中国のPDの担い手の一部であるといえるからだ。

米シンクタンクへの資金提供も問題に

 さらに、政治面では、中国政府がワシントン所在の有力シンクタンクに資金提供を行っているとされており、それが最近になって米国内で問題となっている。2018年8月25日までに米議会が発表した報告書によると、中央統一戦線工作部(統戦部)が主体となり、米国政府に影響力を持つシンクタンクに資金提供し、中国寄りの立場をとるよう働きかけを行っていたという。

 統戦部は、海外におけるPDを実施する組織であり、プロパガンダ工作も行っているとされる。報告書によると、統戦部と深い関わりを持つ中国の非営利団体「中米交流基金」が、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院をはじめ、ブルッキングス研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会、カーネギー国際平和基金など、米国の外交政策策定に影響力を持つ多数のシンクタンクと研究活動などを通して提携していたという。

 さらに、同基金がワシントンにおいて数十万ドルもの予算を投じてロビー活動を行ったり、統戦部が全米の巨大留学生組織「中国学生学者連合会」と連携してスパイ活動に準ずる活動を行ったりしているともいわれる。共和党のクルーズ上院議員も、これを問題視し、今年1月にはテキサス大学に対して交流基金からの資金提供を受けないよう促している。


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