2024年4月27日(土)

ネット炎上のかけらを拾いに

2018年9月22日

「LGBT特権」があるなら具体的に説明してほしい

 実は、杉田議員を擁護する側からも同じことが言われている。

 「新潮45」10月号の特別企画の中で、「LGBTへの税金投入」の内容について具体的に触れている執筆者は、松浦大悟元参議院議員のみである。LGBT当事者である松浦氏は、<杉田議員はLGBTへの税金投入も問題にしていますが、自治体が実施している同性パートナーシップ証明書にはほとんど予算はかかっていません。>と、NEWSWEEK記事と同じ指摘をしている。

 松浦氏は続けて、<指摘するならそこではなく、復興庁が旗を振っている「LGBTツーリズム」でしょう。>と言及。海外からLGBTを被災地に招く企画について、LGBTが利用可能な温泉やトイレの改修工事が行われていることについて、<まだまだ生活債権に苦しんでいる人がいるにもかかわらず、このような復興予算の使われ方はやはりおかしい>と述べている。しかし、これは松浦氏自身が触れているように「復興予算の使われ方」の問題として論じられるべきだ。LGBTだけに特化して復興予算が使われているわけではないのだから、これをもってLGBTへの支援もしくは税金投入が「度が過ぎる」と、果たして言えるのか。

 問題なのは、「生産性」の議論にとらわれるあまり、「税金を投入することが果たしていいのかどうか」という、杉田議員の具体性を欠いた雑な問いかけが、あたかも「LGBTに過大な税金が投入されている」事実があるかのごとくに独り歩きしていることだ。ツイッター上で、「差別は良くないけれど、そんなに税金を投入する必要はない」といった内容の投稿が見られることが、杉田文章の「功績」だろう。

 杉田議員が「税金投入」を問題視しながら、本当にどれだけの「税金投入」が行われているかについては触れないまま文章を終わらせ、今に至るまで特に言及を行っていないのは、いったいなぜなのか。ぜひ説明を願いたい。「税金を投入」という言葉をいったん持ち出せば、都市伝説的に尾ひれがついて拡散されていくことを知っていたからではないのか。

 LGBTに過度な税金投入の事実はないという指摘は、「杉田議員の『LGBT非難』の度が過ぎる LGBT支援も、予算も、じつはほぼ皆無の国で」(BuzzFeed News/8月1日)(https://www.buzzfeed.com/jp/shibunnagayasu/sugita-stop-lgbthinan?utm_term=.qtWenBANE)にもある。杉田議員は、逃げずにきちんと反論してほしい。

杉田議員には差別に気づく心がない

 上記で松浦大悟氏の指摘について反論もしたが、筆者は「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」企画の7人の書き手の文章のうち、杉田議員に目を通してもらいたいものがあるとすれば、松浦氏の文章だけだと思っている。

 ゲイであることをカミングアウトした松浦氏は綴る。自身の暮らす秋田県にゲイバーは一軒もなく、その理由は「顔バレ」を恐れて当事者が集まらず、経営が成り立たないからであること。NPO団体が主催する会合も、参加希望者のみに場所が伝えられ、隠されていること。2012年にはトランスジェンダーの男性が焼身自殺したこと。松浦氏自身、同性愛者であることを理由に「代表にふさわしくない」と言われた経験があること。

 <LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか。><そもそも日本には、同性愛の人たちに対して、『非国民だ!』という風潮はありません。>と書いた杉田議員は、これを読んで恥ずかしくならないのだろうか。

 わからない人にはわからない。気づけない人は気づけない。当事者でない者が知らないままでいたいと思えば知らないでいられる。だから差別は怖いのだ。
 

  
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